甲賀三郎・小説感想リスト昭和十一年

森の悲劇

高笠武郎もの。探偵小説家で甲賀三郎の分身の高笠武郎はと瑞穂村で二人の男の話を聞いた。すると一人目の男は殺人を犯したが、全く新聞に評判にもならず、しかも殺したはずの男と後で出会って、しかも盃を共にしたという。二人目の男はその一人目の男に殺されたはずの男であるのだが、二人目の方、一人目の死体を見かけ、動機と状況証拠が自分に向いていると感じ、思わず逃げてきたが、そこで生きている一人目と出会ったという。この矛盾した謎々を高笠が解き明かすというもの。実際には二人目の男の話で出て来る、二人目の男の女房の話なども関わってきており、普通に考えれば当たり前の結論しか出てこないので、まったくヒネリのあるようなものではない。まぁごくライトな本格物である。
私的相対評価=☆☆

四次元の断面

警察、検察の前での自白。それは妻を殺したと思われた男の口から飛び出たs真心のこもった言葉。しかし突如言質をひっくり返したのだ。その結果の放免。自白の内容に矛盾があったことにろくな説明がない事やら少々気になる点もあるが、狂気的に変化する心理は面白い所だろうか。妻の浮気を信じた男の悲劇は、ある写真作品から生まれていたのだが、それが二転三転、悲劇は悲劇を呼び、まさに喜劇のごとくなのだ。四次元の断面に潜んでいた真実とは!? 
私的相対評価=☆☆☆

木内家殺人事件

東京帝大卒で若き地主はその温厚な性質からもあって村人たちにも人気があったが、別荘で療養中以後、謎の行方不明を遂げてしまった。その木内家、他に弟、妹、従弟といるのだが、ここ最近米国で多大な財をなした叔父が死亡した事による遺産問題も、その木内家当主の失踪事件に絡んでいるように見えた。そして意外なところから死体が二つ発見されるに及ぶのである。最も疑わしきは自供の内容をコロコロ変えてしまうのだが……。さて、まさに木内家殺人事件の表題に相応しいこの事件の恐るべき陰謀とは如何なるものであったか! 些か唐突の感もあるが写真のトリックや陪審制などのエッセンスなども詰まっているし、意表外に展開する真相への筋道も面白いと言える本篇なのである。
私的相対評価=☆☆☆☆

イリナの幻影

民国政府顧問の親日家という西洋人が密室の中で変死を遂げた。しかもなぜか手元の写真には日本の要塞写真が・・・。これは殺人か! 病死か!? とにかく娘のイリナである。そのイリナも上海で突如日本人医学博士に殺されてしまう。その日本人から届いたのがイリナの幻影に取り憑かれた男の告白書、あらゆる意味で恐るべき錯誤が示されたあったのだ何という悲しき幻影だったか・・・。
私的相対評価=☆☆

哲学者と驢馬

美術商会主は人や生物に自由意志は無いというブリダンのロバの話を好んでする哲学者気取りな男だったが、この男と助手とは実は悪徳者だった。金持ちから絵などを盗み巧みに取引をして少しずつ無理なき範囲で確実に儲けていくのである。しかしある時盗みに入った助手がブリダンのロバを実践してしまったのだ。それは幸か不幸か、右か左か・・・、甲乙付けがたい二つから選べない自由意志の無さ・・・・・・。
私的相対評価=☆☆☆

謎の少年

英国籍の客船で大人二人に脅迫されている少年。それを助けようとした保田青年だったが、その東シナ海で船が転覆してしまう。運良く助かった少年と保田、しかし少年は記憶を失っており、まさに謎の少年と相成ってしまった。更に少年の背中にある地図のような刺青。この謎とは如何なるものか!? そして謎と言えば東シナ海で磁石が微妙に狂うという問題!? その後少年は圧巻に攫われてしまうなどの危難に迎えるが・・・、果たして運命は!?
私的相対評価=☆☆

死化粧する女

短めの長篇である。東京市内でしか販路を持たぬ小新聞・東都新聞の記者、幡田は主幹や幹部連の留守につき留守番を言いつけられていた。そこに飛び込んできた謎の投書! それによると、事件があるというのだ。せっかくのチャンスを逃すものか、と、幡田はその指定の場所に行くが、それが死化粧する女事件に直面する事になろうとは!? 死化粧する女はピストルで殺害されていた。が、その顔は死化粧されていたのだ。しかも周りには獣物の血液がまき散らされて入るという奇怪な状況。これは一体何を語るというのか。更に疑わしき人物として東都新聞主幹の息子の名前が急浮上。さらに死化粧する女以外にも、女の姿がチラホラするなど、重要なプロットを形作っていくのである。果たしてこの意外な犯人を隠してしまう本格的謎の正体は如何に!?
私的相対評価=☆☆☆☆

N2号館の殺人

変幻複雑なプロット、隠し方のトリック、そしてお手ものの理化学トリックで構成した本格物中篇。犯人への道の転回も美事である。些か事件に関係ない細部でご都合主義的一致も見られるが、単なるあまり関係ない部分の理由付けに過ぎぬ。私立探偵・佐倉竜平活躍。
私的相対評価=☆☆☆☆

虞美人の涙

鳳明という34、5歳の怪盗が活躍する長篇探偵小説。さすがに長篇らしくトリックよりもプロットを、という展開で、謎を解き明かしていく。虞美人の涙ことダイヤモンド(夜光珠)を巡る恐るべき怪事件。日東新聞編輯長が事件がないなら、事件を起こしそうな人を捜せ!といったことから記者たちは巻き込まれていくが・・・・・・。ラストの暗号は苦笑のみ。なお、短い長篇(長い中篇)である。
私的相対評価=☆☆☆

操る魔手

国家問題に繋がる秘密書類が盗まれた外交官の主人公はそれが出来る疑うべく相手として、妻を含む家人と妻の友人だけと知り愕然としてしまう。更に密告は主人公の運命共同体とも言える独人にも及び・・・・・・。操る魔手、その意味も絶妙ながら、操られた魔手の考えた隠し方も奇抜。さて、この国家に大損益を与えかねない大事件のユーモラスな結末とは・・・!?
私的相対評価=☆☆☆

決死の御城碁

初出誌「キング」昭和11年10月号なのだが、その前号では随筆「二十一世紀名人・本因坊秀哉」という囲碁の名人の伝記を書いており、その流れをもって、この小説に挑んでいる様が見て取れる。
目次では「名人小説」と銘打っている。幕府の碁所は従来本因坊家のものだったが、それが理不尽にも奪われてしまっていた。
そこで死を賭して異例の争碁を申し出るという話。研究者の弟子こそMVPものであろう時代小説だ。
私的相対評価=☆☆☆

赤い壜

金助は長屋の人気者、長屋仲間から頼まれた用事にも嫌な顔一つ見せず、工場の方でも短期間で出世するなど人柄は誰もが認める所となっていた。そんな彼が長屋の娘お菊に恋心を抱くのだが、彼を人気者まで必死に駆り立てていた根本の動機は、3年前にまで遡り、そのしがらみの地獄は彼を逃してはくれていなかった。お菊は赤い壜を道すがら王子のような男にもらい、その男に恋心を抱いていた。が盗まれた赤い壜の前に、再び現れた男は態度を一変させ、そこでたまたま現れた金助に三年前を脅迫する展開。さて、三年前の秘密とそこまで執着した赤い壜の秘密とは一体何だったか!? というお話。よく言えば法律による罪の償いと世間の見る目とのギャップを述べているが、まぁ、有り体な小説評価で言えば、ご都合主義的で江戸時代的な臭いのする抜け×義侠物で、秘密も含めて取って付けたようなものであり、まるで大したものではないと言わざるを得ないだろう。(×は一応伏せ字にしとく)
私的相対評価=☆