甲賀三郎・小説感想リスト昭和十六年

夕陽輝く頃

主人公はアメリカ資本の前に屈辱を味あわざるを得なかった。カンボジア在の主人公、そこでやけくそになったわけでもあるまいが奥地の遺跡群を目指すことになるが・・・、大東亜の本当は目指していた所の理想郷の縮図を作り出す本篇は感動的な作品と言えないこともない。一時は悪漢と対面しつつも、上手い具合に夕陽は輝き、教訓を習いつつも、主人公の夢は叶おうとしているのである。

私的相対評価=☆☆☆

海からの使者

文頭句は「思いがけない旧友の謎の来訪に意外の事件突発」。
文末句「逃すなスパイ、洩らすな機密」

章分けとしては次の通りとなっている。
「別れの夜」「最初の知らせ」「葉巻の函」「敵手に落つ」「味方を計る」

医者の主人公は矢柄という男と知り合う。この矢柄は機密の活動を行っているようだがはっきりしなかった。 ある時、その矢柄と秘密のやり取りを行うという約束を交わし、その後実際に中国大陸発行の新聞に伝達文が載ったため、 主人公とその娘は自家用の小型自動車ダットサンで、千葉県九十九里浜の豊海海岸(千葉県九十九里町) で西船を待つことになった。 そこにスペイン船でやってきた海からの使者がドイツ人だったのだ。そのドイツ人から葉巻を受け取った主人公と娘だったが、帰路にスパイ集団に襲われてしまう。 果たして秘密は守られたのだろうか? と言う展開となっている。

このスパイ小説の新鮮味を感じるところがあるとすれば、主人公の中年だけではなく、その若い娘までが事件の渦中に飛び込んでいるところだろう。 解決としては最終章の「味方を計る」のトリックはあるにせよ、正直運の要素に頼った面になっており主人公の面目は立たないところがいまいちなのだが、 一方で、その最後の部分がこの作品における唯一の探偵小説味、隠し方のトリックなのだから、スパイを出し抜くスパイ小説としては仕方がないとも言えるだろう。

私的相対評価=☆☆☆

閃光電球

昭和17年1月刊行の大白書房「支那服の女」で読む。

防諜課長と探偵長が出てきたりスパイが出てきたりと時代がかった設定の殻をかぶりつつも、 その内実は毒蜘蛛や謎の窃盗、化学者登場しての理化学的トリックという甲賀三郎の探偵小説という作品。この時代にあって大正末期や昭和初期のような甲賀三郎らしい作品に出会えたのは非常に面白い。

タクシーで毒蜘蛛に噛まれて死んでしまった諜報員。しかし普通は毒蜘蛛に噛まれたくらいでは死なないにも関わらず死んでしまった謎。
そこが「死頭蛾の恐怖」の上を行く秘密結社の真相ともなっている。そして閃光電球の大量盗難事件という二つの事件が 多少無理に絡み合う事件の真相とは。閃光電球の秘密なのだが、巧妙な隠し方を描いた作品でもある。

それぞれの章題は以下の通り。
毒蜘蛛で/写真館荒し/アナフラキシス/人体電気研究所/蜘蛛の脅威/透き通るもの
私的相対評価=☆☆☆

特異体質

日本国としての台湾が舞台という点が興味深い作品。医学小説だ。
全体安全な薬を注射したはずが2人までも原因不明の中毒死をしてしまうという事件が発生する。
元は特異体質による特殊な事例とも考えられたが、それも否定されたのだ。
真相は医者としての信用の盲点ともいうべきところにあったのだが。
私的相対評価=☆☆(非探偵小説)