甲賀三郎・小説感想リスト昭和八年

暗黒紳士(黒衣の怪人)

暗黒紳士を二三年ぶりに再開した武井勇夫の物語。(「証拠の写真」事件と矛盾する)今回は親の金を持ち出したつもりが重要書類を持ち出しそれを悪漢に奪われ、 大金を無心されるという悲劇に遭った良家の奥方からの訴えであった。元は放蕩息子が法的にも悪いので官権にも頼れない事件をひそかに解決するのが武井の仕事ぶりなのだが、今回はまさに綱渡り。
武井勇夫も春山探偵に捕まるのを覚悟しての芸当となった。暗黒紳士は三度来るの意味はいかなるものだったか。黒装束に身を包む暗黒紳士の活躍の意味とは。
老僕篠田の茶目っ気も少し健在健在だ。
私的相対評価=☆☆☆

アラディンの洋燈

土井江南も少し登場する手塚龍太シリーズ。金庫破りの主人公の語りも流快で面白いし、出てくる御経の暗号の謎も面白い。さて、アラジンのような三重金庫の謎とその暗号、そして事件の裏に隠されていたのはどのようなものだったか!? そして手塚龍太の企みは!?
私的相対評価=☆☆☆☆

犯罪発明者

新聞記者の獅子内俊次活躍ものだ。新聞記者一年目の獅子内という、「姿なき怪盗」より二年以前の事件となる。その冒険精神に富む獅子内だが、今回の事件でも危機の連発である。事件の解決に大活躍の下に絡んでいるという意味では問題ないが、それは決して自らの頭脳が示した結果ではない。勇気が示した結果なのだ。恐るべきは二種類の犯罪研究家の秘密。過去の冤罪?事件も大いに絡みつつ、友人検事宅の女中の失踪、死刑囚の失踪、精神病院の怪事件などなど複数の事件が一つに繋がっていくという恐るべき展開なのだ。前半は獅子内行く所に関連事件が転がるというご都合主義的所も見受けられるが、限られたページ数で序盤を作らねばならない苦労を考えると致し方ないという側面もあるのだろう。
私的相対評価=☆☆☆☆

体温計殺人事件

平熱まで上昇している体温計、時を隔てて伐られた夫婦松の呪いなのか? 火の玉のような謎の怪火、壱千万長者らしからぬ悪夢のような恐るべき遺言書、快刀乱麻の理化学的トリックと恐るべき錯誤・・・・・・、これらの材料が複雑に入り組んだ本格中篇。秀作である。人嫌いで千万長者の石持敬助は、なぜか気候的にも適当でない田舎の村に別荘を建て、その際、反対を押し切って既に一本が伐られ測候所(既に廃物だが)になっていたところ、更に残りの一本の老松も伐り倒した。そのまだしも避暑用と思われた別荘に何故か寒い冬にやって来た石持に襲いかかったのは謎の原因不明の死。しかも密室状態なのである。果たしてこれは自殺か、他殺か、容疑者は指の本数ほどいるものの・・・・・・、さてさて、なのだ。体温計殺人事件のタイトルが示すとおり体温計がキーとなるこの本篇、複数のストーリーが絶妙に絡み合い、結果事件紛糾に到り、悪魔すらも平然といられぬという面白さ。そして紛糾がなければ、事件の様相は大きく異なっていたかもと言う事実。運命の面白さも含まれているのかも知れない。なお、本作は甲賀三郎の代表中篇の一つであり、新青年の連続百枚読切で発表された。
私的相対評価=☆☆☆☆☆

殺人迷路(連作の第10回・終局)

この連作小説については、「乱歩の世界」の小説紹介があるので、こちらを参照してもらいたい。
この作品自体が連作中でも稀有な駄々の駄作だと思うので、最終を務めた甲賀三郎の評価も下がりぎみだが、実際はこの作品における甲賀の活躍は甚だしいものがある。なにせそういう中でラストを上手く纏めたのであるから。
私的相対評価=☆☆(甲賀分)

天賞堂金塊事件

大下宇陀児、水谷準、甲賀三郎による連作探偵小説。しかも実際に迷宮入りした事件をネタにした探偵小説となっているのだから少し妙な興味となる。
ハロトン紙に包まれた煉瓦という実際の唯一の手がかりを元にして、発端の大下宇陀児が跛をひいた女という謎を提示し、水谷準がカフェでその謎に迫り重要人物を増やしたりした後、 甲賀三郎が事件を更に発展させ奇麗にまとめ上げるウィットに富んだ解決をもたらすという展開だった。
私的相対評価=☆☆☆

情況証拠

法廷もので、タイトル通り状況証拠の曖昧さを扱ったものであり、例え自白を含めた状況証拠が幾つあろうと、直接証拠がなければ罪を負わすには足りない、というものをメインにしている。プロバビリティの犯罪や理化学トリック、葛城春雄的手法など面白い要素を付加しすぎて、そのメインが確かに些か薄れて全体としてアンバランスな感じも少々するものの、充分秀作に分類される作品であるのは間違いない所だと思う。
私的相対評価=☆☆☆☆

波斯猫の死

谷屋三千雄、東京郊外の警察署長だった頃の事件で、これは佳作の部類に入れてもいい探偵小説である。意外な犯罪と言えるだろう。一酸化炭素による毒ガス中毒の話から展開して、ある恐るべき犯罪事件が語られる。それがストリキニーネに毒殺された可哀想なペルシャ猫と、心臓病で突然死した、ある博士に関する事件なのである。博士は解剖に伏されたが、全く検出されなかった不思議。そこには未知のアンフェアなどもちろん存在しない。あるのはただ狡知だけなのだ。顎髭のオートバイの怪人物の謎。謎の空気音。博士の使用人・妙子の愛人の示した謎の行動。突如現れた博士の甥を名乗る男、等々謎々のオンパレード、そして犯人の狡知と、まさに謎の小説、本格探偵小説、ここにありともいうべき作品。やはりこの昭和八年前後の甲賀の本格物は総じて最もパフォーマンスが高いようだと再確認。
私的相対評価=☆☆☆☆

消え失せた死体

最後の航海を終えようとしていた船長の船はマルセイユから瀬戸内海にまでたどり着いていた。その船長が船客にもらったのがライターであったのだが・・・、このライターと船客が事件を飛んでもない方向へと導いていくのだ。ライターを息子に送った事がまさか、トランクの中の死体、それが消失するという魔法に繋がっていくとは!? さてこの魔法の謎とライターの秘密の関連性とは。
私的相対評価=☆☆☆