甲賀三郎・小説感想リスト昭和十五年 |
海獅子丸の真珠海洋小説。日本人のジローは、英船・海獅子丸の唯一の生き残り。しかしユダヤ系のセラーにまんまと騙されてしまい、絶大な価値のある海獅子丸の真珠の在処を教えてしまったのである。さて、セラーは日本人と準現地人を騙くらかして野望の海獅子丸の真珠を得ることができただろうか!? フィリピン・マニラや南洋の島々を舞台にした南洋ロマン。物語として、面白いことは面白くはあるんだが、やはりそれ以上ではない。私的相対評価=☆☆ 酒場の少女ラヂオドラマ。実際に電波に載ったかどうかは定かではない。悲哀感たっぷりの戦時感動劇である。舞台は第一次大戦最中のパリ。酒場の少女には恋人がいたが、そこは非情な戦時社会のこと、父親の徴兵免除の金銭を得るためには、結ばれざる二人であった。そこに金を貸してやると恋人に近づくのは善人そうな男。これがドイツ諜報機関の人間であったという悲劇。交換条件は恐るべき軍事機密…。 恋人の方はあまりにも軽率であるが、愛を思えば致し方がないとも言える。そして勇気ある酒場の少女の活躍とその究極の愛情表現には感動すべしだ。一方でこの作品にはスパイが日常の至るところにいて、弱味を握るチャンスを窺っているので、大衆にも注意を喚起しているところにあるのだろう。 私的相対評価=☆☆ 独木舟の三人独木舟にはカヌーというルビが振ってある。東南アジアの川下りに使うような小型カヌーのことを指すのだろう。それにしても不思議な作品だった。訓話と言うべきなのか? 主人公の土人は一人川べりにいたところ、カヌーで川を下ってくる外国人三人に遭遇するが、それがいきなり鉄砲で狙いを定めてくるような残虐そうな三人組であったと言うような展開。三人の外国人は舞台の統治国のオランダ人ではなく、逃亡者であった。 日本人は当然ながら善人に描かれており、残り二人の宝石窃盗犯の命をを事情を知らずに救出してしまっていた。残り二人は英米人と思われる。訓話たるところは土人は女の子に良い格好するためにも英米人の長靴が欲しかった。英米人は仲間の二人を殺して、宝石を独占したかった。日本人は宝石を現地人に返して、日本の印象を良くし石油の利権を獲得したかった。で結局は、英米人は殺し合い、土人も手を血に染めたが目的は達成し、善なる日本人は漁夫の利を得るという話。 私的相対評価=☆☆ 血の花びら資産家の老齢の叔母菊代と喧嘩が絶えない多恵子。元は仲良しだったが、その喧嘩の原因が多恵子の結婚問題だった。菊代は多恵子の結婚を許せないという立場なのだ。その二人は昨夜も大喧嘩をしたのだったが、翌日になっても菊代は起床しない。そうこうするうちに菊代の昔の恋人の息子を名乗る男が現れ、菊代が夜の間に殺害されたという事実も現れる。 血の花びらが真相を究明するが、遺産を失ったという虚言の不思議やあからさますぎる血の花びらからして、なんとも薄っぺらいが、 心理的な追求や女のみの家を描いている点などは少し面白いかもしれない。 私的相対評価=☆☆ 海の仁義タイトルの通り海の仁義小説であり、全く探偵小説味は感じられない。少しは期待するだけに残念である。単なる仁義小説で論理も工夫もあったもんではない。話は、水夫長は新しい船長を忌み嫌っていた。というのも彼は実地出の船長が好きであり、学校出でしかも丁寧語を話す船長が嫌で嫌で仕方がなかったからである。そんな最中、海の困難が到来し、ようやく難船の危難は脱したが、目の前には別の船が沈みかけているという状況。船長は助けろとの命令を出すが、水夫長は助ける側のリスクが余りに大きすぎるから無理だと拒否するも・・・という展開。そこで海の仁義が登場し、そして凱歌を挙げるという内容で、全く凡作であるのは言わずもがなのとおりである。私的相対評価=☆ 多気博士精妙なバラをかたどった石。しかもダイヤよりも固いというのだ。それは多気博士の残された発明だと言う。しかしその持ち主だった美男俳優は失踪中・・・。これは何を意味するのか! そして絵描きの弟子と女との関わり・・・、多気博士の恐るべき実験。まさにダイヤより固い人形の完成だ。これは真実か夢かの怪奇小説。私的相対評価=☆☆☆ 劉夫人の腕環上海を舞台に、大東亜の仲の良さを見せつけつつ何だか翳りも見える一篇。ホテルでは宝石盗難事件が連続的に横行していた。そこに現れたのはかつて日本で紳士的怪盗をしていた黒川豹。その彼の過去の恋愛も絡みつつストーリーは展開するが、重要人物としては中国人の頭に障害を持つながら音楽的才能だけは抜群の劉夫人長男、その彼を黒川に保護してくれと頼む理由と、そして予想通り紛失した劉夫人の腕環。果たしてこれは宝石泥棒事件と同じなのか? そしてその犯人と、意外な隠し場所とは? 論理的に考えて、劉夫人の腕輪の秘密に関しては、全くナンセンス極まりないものがあるのが根本的に問題ある作品と言え、それが面白さを落としてしまっている感はあるだろう。が、きっちりこの時代に怪盗と探偵を出す探偵小説のスタイルを貫いている所は美事かも知れない。私的相対評価=☆☆☆ 彼女微笑めば頭もとい探偵長から東京から神戸へ金庫破りに派遣された釜吉は特急燕の二等車に乗っていたが、 名古屋で洋装の楊貴妃のような美人と遭遇し、一瞬の微笑みを得た。その車両には目つきの悪い男も乗り込んでいたのだった。女は兄の放蕩癖に困り果てており、何とか自分の財産を取り戻したいから、 神戸の家にある金庫から自分の分の資産を取り戻したいという。美人に骨抜きにされていた釜吉は特急燕が名古屋から京都へ 走り抜けている間に、金庫破りの約束を交わしてしまう。 美人に骨抜きと思いきや、トランクの存在という突破口から国際スパイ団の欺瞞を見破るところが、 スパイ小説の皮を被った広い意味の探偵小説であり、自由な釜吉の軽妙な一人称と相まって、まだ民主の風が吹いていた時代に近いテイストになっているのも良い。 私的相対評価=☆☆☆ 二度目の冤罪良人は二年ぶりに帰ってきた。獄中にいたのである。というのも良人曰くには冤罪であり、ハメられたということだ。しかしあろう事か奥さんはそのハメた男から仕送りを頂戴していた。そんなもんだから良人は怒り心頭も倍極まったのか夜に出かけていった。が、帰ってきた良人は晴れ晴れとしていた。擦った揉んだで和解したらしい。が、それも長続きせず、和解相手が死んだというニュース。良人は先の冤罪で気弱になっており、二度目の冤罪で死刑とか叫んでしまっている。でも奥さんだけは良人を信じたかった。というような展開で、二度目の冤罪のピンチに陥ってしまうわけだが、結局何が言いたいのかよくわからない人情的なオチで幕だった。筆跡鑑定家の意味不明な失態なども含め、悪い意味でのよくわからない作品。私的相対評価=☆ 日本人の死外地小説。インドネシアの回教徒の村落を舞台に展開。そこでみつかった油田、そこに英国の会社も確保目指してやって来たのだ。主人公は、愚鈍な前任者に苦労し、日本人に私怨で襲われつつも、強力な信念を持って目的達成目指す。狂と化した回教徒もアラーの奇蹟で沈み、日本人は元の親友として、親友を救うために死んだ。しかし結果的に国家の利益になり主人公も信念を達成出来たのだ。このような外地小説でも現地の女性が強力なキー助けとなるところがいかにも甲賀三郎らしさ維持であり、全く探偵小説でなくても、甲賀らしい面白味があるのである。私的相対評価=☆☆ |