甲賀三郎・小説感想リスト昭和七年

不幸な宝石

オパールは不幸な宝石。その不幸な宝石から犯罪を露見してしまうという象徴的なタイトルとなっている。
筋としては朝鮮から奉天へ重要書類を届ける役目を負ったのは民間のパイロットだった。
しかしカフェの女給に重要任務を漏らしてしまったことから、夜襲を受けてしまい、重要書類を盗まれてしまったのだ。
はたして、日本国防に関わる重要書類は敵国に渡ってしまったのだろうか?
甲賀作品でも似たパターンが多い普通の探偵小説的話だが、身近なスパイの存在を感じずにはいられなくなる作品でもあるのだろう。
私的相対評価=☆☆☆

安心の吐息

昔馴染みの幼なじみを見つけた主人公は喜びに満ちていた。しかし見つけた相手は詐欺師の娘という運命。
それでも愛の力は偉大だった。主人公は親に結婚を願い出るのだったが。やはり親は反対。
しかし出獄した詐欺師の方では娘の幸福を祈っており、主人公一家の出世を聞き大喜びという展開。そして詐欺師が親の前に現れるのだったが。

まさかの展開は意外や意外だった。どういう詐欺で金がどうなったのかが謎なのだが、若い二人は安心の吐息となる展開となったのだ。いやはや意味がわかりかねる作品だが、娘を思う親は復讐の猜疑心なんてものよりも娘の幸福を取ったという美談ということなのだろうか。
私的相対評価=☆☆

幸運の魔像

退役軍人は殺害された。殺害者は直前に家を出て行ったソプラノ歌手とされるのだが。
という話で、まず話の筋として、殺害された退役軍人は満州で手に入れた「幸運の魔像」を押しつけられてから、夫婦そろってグングンと幸福になっていたという話へ戻る。
しかしその話をついに東京で行うことになり、主人公と若手ソプラノ歌手の間での行き違いもあって、まさかの不幸の展開となるのだ。
外国人集団にしても現実味がなく、論理性はほとんどない。しかし明らかに得したのが主人公というのが何とも不思議。
私的相対評価=☆☆☆

現場不在証明

京城日報に3回分載。遊蕩していた男は相続元の資産家の伯父から金を無心していたが、ついにもらえなくなってしまった。そこにたまたま金庫に宝石があり符帳も知ってしまった男は劇場観覧というアリバイを作った上で、伯父宅に強盗を装って宝石を盗みだそうと考えたのだったが。。。アリバイ自体が稚拙だが、せっかくのアリバイが無意味になるコントのようなわかりやすい証拠歴然なところが面白いところ。ただ伯父自身の前で露見した方が絶対に面白かったとは思う。
私的相対評価=☆☆

乳のない女

昭和日報記者・獅子内俊次初登場作品である。(もっとも私が読んだ湊全集覆刻版では、「犯罪発明者」「姿なき怪盗」後の事件として描かれてはいたが)男装の美女が獅子内に寄りかかり、謎の三つの単語を吐いてグッタリしてしまった。困惑の獅子内はその後後頭部を殴打されて謎の屋敷で解放されているところで覚醒するというのが発端である。謎の三つの単語というのは高円寺、神林、乳のある女であったが、この三語に翻弄されていくのが獅子内なのだ。獅子内いるところに殺人事件が続発。変わり者の大遺産相続候補たちが、獅子内の目の前でバタバタ謎の怪死を遂げていく。さすがの獅子内も警察に重要参考人として手配されるなど、逃げまどいながらの探偵活動を強いられることになり、大苦戦。しかし自らの潔白の証明するためには探偵活動によって、真犯人の手懸かりを得るしかないのである。さて、この連続怪死事件の真実と真犯人とはいかなるものであったか!? 複雑なプロットが生きた長篇である。少々惜しむらくは出て来る暗号が、トリックの一部でなく、その卓越したプロットの一部に過ぎない感がある点、乳のない女の秘密は、らしくないような怪奇と意外性で面白い物であったが、その効果を生かし切れていない点であろうか。とは言え、獅子内の鬼気迫る命からがらのサスペンス、無茶苦茶に死にまくる人人人……、謎の女との奇妙過ぎる邂逅、そして何よりも誰が犯人か、乳のない女とは!、わかりやすくも脅威の真相等々と、という本格的な謎の興味に惹かれて読み進まずにはいられないのである。
私的相対評価=☆☆☆☆
   

計略二重戦

少年物ながら、こりゃあ面白い展開だ。スパイ小説ながら、気の利いたトリックとペテン小説要素が面白い。仁科親子の連携した活躍。
私的相対評価=☆☆☆
   

天晴れ名探偵

スーパースターとも言える名探偵を目指す真一少年は勝れた体力&智力&学問、堅忍不抜の精神、聖僧のような道徳心、柳に飛びついたという蛙のような根気 を身につける努力をしていた。しかし両親はその名探偵志望を心良く思っておらず、そこで泥棒事件をでっちあげて、 探偵の難しさを息子に見せつけようとしたのだったが、恐るべきは真一君だったという展開。
私的相対評価=☆☆

血染のパイプ

副題として「奉天街上赤蠍団の大陰謀!」
満州国建国前に発生した事件で奉天を舞台とする国際事件。サスペンスというか活劇物というか、愛国、売国という言葉が飛び交う作品。
主人公は青年新聞記者ではあるが作品が作品だけに愛国心が強い、それでいて利己も強い、なかなか思い込みの激しい男。
赤蠍団によってダンスを踊っているだけの主人公ではあったが、登場人物達もかわいそうな主人公を惑わす一方なのだからたまらない。
とにかく典型的な連載物らしく主人公は毎回有り得ないほどの振り幅で振り回され、ムチャクチャな主人公視点で敵味方が入り乱れる活劇が行われる。
序盤の殺人事件から登場する血染めのパイプの謎も最後に取って付けたような形になっているのも、いまいちなところ。
満州国や日露戦争の認識についての記載は意外と冷静なのはまだこの時代だからだろうか。
私的相対評価=☆☆

姿なき怪盗

これこそ秀作中の秀作と言えるべきものだ。謎とロマンに満ちあふれた圧倒的なサスペンス!そして純粋とは言えないまでも、本格興味も充分だ。「ルパン」マイナス犯罪を自認する獅子内俊次 対 所謂「ルパン」プラス殺人の三橋龍三、この熾烈な闘い。そして圧巻すべきプロットの中にも甲賀らしい恐るべき不可能興味のトリックの連続、特に秀逸すべきはラストの根幹なすトリックだ。この作品に欠点があるとすれば、中盤にやや冗長なところを感じたくらいで、まさに絶賛すべき長篇だ!
私的相対評価=☆☆☆☆☆

証拠の写真

武井勇夫はその実、義賊怪盗の暗黒紳士であったのだが、既に四、五年前に怪盗稼業は引退していた。しかしそこに中年婦人が訪れ、怪盗復活を願い出てきた。というのも、駄目息子が犯罪行為を犯し、それが悪人に露見してしまったために強請られているという難事を救って欲しいと出てきたのだ。しかし武井は同情こそするもまだ復活の決意はできなかった。しかしそこに今回の悪徳強請屋が警告を放ってきたのだ。こうなっては武井も意地になって活動するというもの。武井暗黒紳士として活躍を再開したのだ。しかし恐るべき証拠の写真を撮られてしまい、暗黒紳士も悪人の思うがままになってしまうという悲劇が発生してしまう。暗黒紳士の武井はいかにこの危機を脱することができただろうか?

暗黒紳士・武井勇夫シリーズ。マグネシウムではなく、現在のフラッシュに近い技術が登場する。義賊を自認する暗黒紳士が悪人に正体の証拠をつかまれ強請られるところには新鮮さを感じる。しかしその解決方法は納得しかねるものであった。むろん義賊であるからには最悪の手段は執れないのはわからないでもないのだが…。
私的相対評価=☆☆

臨終の告白

探偵小説家の小岩井は今でこそ売れっ子の作家であるが、その前身では岩見澤賢吉と名乗っており、3年前から現代までその岩見澤の名前は捨てたままにしていた。ところが、その岩見澤賢吉を殺して床下に埋めたと主張する者が現れ、しかもそれが臨終の告白という恐るべき状況。もちろん小岩井はピンピンしているのであり、必然前身の岩見澤が殺されるはずはない。にも関わらず白骨は出るわ、告白者の述べる岩見澤の特徴は一致するわで、という謎の答えとは!? 出来としては、まぁ、悪くはないレベルだろう。
私的相対評価=☆☆☆

真夜中の円タク

現在進行中の現実の猟奇事件を探偵作家が探偵作家なりに解決を推理するという企画で、「向島八ツ切死體事件」を探偵する、というコーナーに載った。
寺島事件、後でいう玉の井のバラバラ殺人という当時センセーションを起こした実話を探偵小説家の土井江南が挑むというものだが、土井江南の頭脳が絞り出した結論と危難は後に分かった現実の解決とは大きく異なっていたのだった。現実は推理通りには行かない典型だろう。
私的相対評価=☆☆

妖光殺人事件

何かしらの怪奇性を含有させながら、お美事すぎる理化学的トリックとの結実。テレビジョンでの理不尽なアリバイと妖光の秘密の謎とは如何なるものか!? そして妖光殺人事件の示す二重の意味の驚きとは!? 手塚龍太シリーズの異色作。さすがの龍太も一本参ったのである。
私的相対評価=☆☆☆☆☆

妖鳥の呪詛

上野の森で怪しい鳥が啼いた時、犯罪組織の妖鳥団が跋扈暗躍するという迷信。闇の恐怖や死の恐怖という原始からの呪詛。魅力ある犯罪学者が活躍するのが本作だ。 本番中の舞台で実弾が飛び出し俳優が殺害され、銀座の白昼で警部までもが銃殺されるという非常事態。そして閉じた眼。ラストの誤りが少しもったいないが、長編をギュッと引き締めた感のある強力なサスペンスを示した作品だ。
私的相対評価=☆☆☆☆

川波家の秘密

異常な雰囲気を描ききった本格。少し謎に微妙な所があるものの、概して秀作に入れてもいいのではないかと思う。何より異常な一家を作りだしているのが効果的であり、秘密の一部でもある。主人公は無口で恐ろしくやせ細った友人の川波の家へ招かれたが、その家自体が恐ろしく辺鄙な所にあるようなわけだった。そこで主人公は夜夢うつつに部屋に三年前の川波の父親殺しで逃亡中だと言う川波の叔父の姿を見・・・・・・、と言う展開。果たして、川波家を覆う沈鬱な空気の謎とはいかなるものだったか、というストーリーである。
私的相対評価=☆☆☆

奇蹟

こんな作品を甲賀三郎も書くんだなという感想。
詩の作家は素晴らしき詩を書けて気分上々だったが、 突風、そして大雨によりその原稿が散失してしまう。
ところが正しく印刷所に届くという奇蹟。それは魔法ではなく、 日常のルーチンワークゆえの錯覚がもたらした奇蹟だったのだ。
ちなみに「奇蹟」という表題の作品は別にもあるが、少なくとも昭和14年「日の出」の作品とは一切関係はない。
私的相対評価=☆☆☆