甲賀三郎・小説感想リスト昭和九年 |
邪視(2017/5/5に追記したもの)2011/7/4には以下のようなことを書いているが、再読してみると、邪視というタイトルが示す効果が果たしてどうにも弱いため、怪奇味が足りない。いや探偵小説に怪奇味は条件とは言えないため、この場合タイトルの付け方に問題があったとも言える。 とはいえ、当時最新鋭だった医療法をシニカルにも紹介したりと殺人トリックの創案というよりも、そのための作品となっているのだが、それが邪視の効果に対する喜劇の伏線になっているとはいえ、もう少し巧みに捌ければ更に良作になりえたかもしれない。 (2001/7/4に記したもの) 手記形式の犯罪小説。怪奇味も充分だ。手記の作者の主人公は膨大な財産を相続せしめるためと、邪視の恐怖から逃れる為に殺人及び殺人未遂を計画するのだが、気狂い叔母に一連の計画を見られたことから、その視線は邪視となり、この邪視の恐怖が一種喜劇を創りだすことになるのである。密室殺人の創案は少し面白いトリックで、その喜劇的効果は更に面白い。しかしそれ関連の随筆と言い、甲賀三郎はよほど蚊に注目していたらしい。 私的相対評価=☆☆☆☆ 夜の闖入者暗黒紳士・武井勇夫の活躍譚。この武井は不断は素人探偵作家、本職は何と大泥棒の暗黒紳士なのである。とは言え、その活動は、弱みを握って来る恐喝者を懲らしめたりすることが目的の義賊なのだ。この事件も、武井がライバルの探偵春山に追われて思わず入った家を救う事になるのだ。愛に満ちた姉であったが、妹が手紙で脅迫されているのを不法手段で解決しようとしてしまう。そこに武井が無許可に活躍を始めるという展開。トリックも何も存在しないが、暗黒紳士の慈善行為を象るプロットを読むに、清々しい物があると言えよう。さて、本事件で割を食う事になる、暗黒紳士の名刺が置かれる気の毒な悪漢は誰あろうか!?私的相対評価=☆☆ 誰が裁いたかこれを読んだ時点では、甲賀三郎全作品の中で最も面白いのではないか、と感じたほどの一大傑作だ。法律的正義の要素を取り入れ、法的意味での完全犯罪を解き、更に事件の部分でも心理的トリック、理化学的トリックがあまりにも効果的。そして法律的正義の要素を取り入れたと言えども、人間も描かれており、何かしら伝わるものも感じられる本格探偵小説である。加えて、「カナリヤの秘密」のある効果を応用し、この探偵小説をますます引き立たせている。ラストの展開もこの主題に相応しいもので、ここでも効果的なものがある。とにかく絶讃。ちょっとばかり前半ストーリーの流れを中心に追記を加えると、主人公の父親は日本アルプスの峡谷で行方不明になったのだが、その時同行していたのが支配人であり、証拠はないが直感のようなもので彼を殺害の疑惑で見る者があった。主人公の母親である。法律的には証拠無ければどうしようもないというのもネックになっていたが、主人公は十年間子の母親の下で執念の教育を受ける事になった。なぜ十年と言うに、ちょうど十年後にこの母親も別荘で死体となってしまったのだ。支配人も同じ場所にいたもアリバイがある等疑われる余地は少ない。そして更に十年後、支配人は主人公と語り手を件の別荘に誘ったという展開。「誰が裁いたか」そのテーマは法律的をも超過している恐るべきテーマであり、「誰が殺したか」同様、死人に口なしである以上、法を超過したこの問題は永遠の苦しみを持たせる重いテーマに違いない。 私的相対評価=☆☆☆☆☆ 二つの帽子警察官・谷屋三千雄シリーズ。と言っても昔日の事件の語り手であるだけで、彼にとっては失敗談であった。婆さんの下宿で二階屋に住んでいた男が死んでいた。それがまた奇々怪々な状況なのであるから大騒ぎだ。窓が開いていただけで他は密室状態であったのである。握られていたピストル、しかし火を噴いていないのだ。にもかかわらずの死の闇。二階屋に平気で登るは、世間を騒がしていた猫のように身軽な怪盗・山猫強盗のみ。さて、これは山猫強盗の仕業だと言うのだろうか!? 二つのサイズの違う帽子、鳥打帽と中折帽を巡って、中岡警視の名推理が冴え渡る。どれも力に欠ける感はあるが、謎と推理と意外性と勢揃い、それなりの並の面白さと言えるだろうか。私的相対評価=☆☆☆ 犯人捜査行進曲(連作「五本の手紙」のその三)猪狩萬太は自己の名前で自分の名前を克服する旨の手紙を受け取った。その犯人を捜すために彼は知人に当たりまくるが・・・。挙げ句の果てのユーモアだ。ただ大したことはない。なお、連作とは言え、一つ一つは独立しているに等しい。また「五本の手紙」はユーモア連作である。 私的相対評価=☆☆(甲賀分) 池畔の謎元刑事は語り出した。売春婦が殺害された殺害事件の犯人はたらしの亀と目され、その行方を追う刑事だったが、潜伏先が見当も付かないため、いつものように 非科学的にも易者に頼むことにした。ところが水晶玉の占い通りに、池畔に亀の居場所を発見し、更に事件は思わぬ方向へ。 という展開。短い作品だが、何故を考える余韻を与えてくれることが元刑事の昔語りということなのだろう。 ただ怪奇犯罪小説の類いになるのは間違いあるまい。 私的相対評価=☆☆ 痣のある女語り手の私立探偵の隣に住む姉妹は両親に死なれた異父姉妹なのだが、その妹から探偵に依頼があった。行方不明の姉を探して欲しいという。その姉は顔に大きな痣があったことも影響してか婚期を逃していたのだが、探索の結果、その姉が九十九里で若い男と同棲していたことを突き止めた。 同棲の家には、巨大ストーブ。そして若い男は病に伏せることも多かったという。しかしいつしか仲違いしたらしく、二人は既に失踪済みであった。 はたして、姉の行方は? という話。 痣やストーブから理にかなった恐ろしい探偵の推理だったが、まさかの手紙により真相が意外に裏返ったのだ。それは、どうにも姉納得いきかねる点はあるので、全ては語らなかったということで納得した方がいいのかもしれない。 私的相対評価=☆☆☆ 以下は2002/5/8に記した最初の感想 薄幸のの姉妹の内、姉は顔に二銭銅貨大ほどの痣のある女だった。その姉の方が突如居なくなってしまったのだ。最初便りがあったが、それも途絶えてしまった。そこで主人公の私立探偵に依頼するも・・・・・・。大きすぎるストーブや布の偽計などの材料を裏切る意外な告白書とは!? 私的相対評価=☆☆☆ 死後の復讐役人を詐称して空き地を掘り起こした者、毒にやられた金庫破り、突然の殺人呼ばわり、奇々怪々な事件が3つ。 それをつないでいたのは恐るべき死後の復讐から生じたものだった。大金持ちの老人はチフス菌によって病死したように思われた。 死後の依頼を受けていた弁護士は遺産相続人の甥と一緒に開けるように厳命された上で巨大金庫の鍵を受け取っていたが、 巨大金庫の中身は空っぽであり、中には小さな金庫があるのみだったのだ。あげくに殺人に責め立てる音声! 老人は遺産を誰にも渡したくないがために、遺産を隠してしまっていたのだ。 死後の依頼を受けていた弁護士は死後の復讐の真相を突き止めようとするが。という話。 お馴染みの毒ガスや毒蛇はもとより、灯台もと暗し、隠し方のトリック物としても面白い。 初読時は素直に読んでいたのだが、死人に口なし物かもしれぬと思いだした。怪しい点が多々ある上に、 あまりにも結果が良すぎる。恐るべき奸計を仕掛けたのは死後の復讐を利用した漁夫の利か? 色々考える余地がある点も面白い作品言えるだろう。 (2016/4/30) 以下は2001年11月に記した最初の感想 死後の復讐! それは単なる強迫観念の為せる業だっただろうか? 否、恐るべき奸計の予防線である。チブス菌による病毒殺、こんなナンセンスは有り得るのか!? まさに生物化学兵器の雛形ではないか。もし事実とすれば恐るべき犯罪者と言わねばならぬ。しかし、死者の妄念は更に上を行っていたのだ。二重三重の心理を衝く罠! 悪魔的復讐劇である。また隠し方のトリックとしても意外で少し面白いものを用いている。なお、白川友次なるいくつもの名前を持つという名探偵が登場する。 私的相対評価=☆☆☆ 黒い虹(連作の終局の第6回)この連作小説については、「乱歩の世界」の小説紹介があるので、こちらを参照してもらいたい。甲賀三郎はこの5/6まで犯罪小説を、理不尽なノルマとはいえ、美事までに本格として解決を付けている。この解決の意外さは圧倒的すぎるのである。 私的相対評価=☆☆☆☆(甲賀分) 血液型殺人事件血液型から判明する恐るべき復讐劇!血液型の示す謎の符合と理化学的トリックの果てにあるものはやはり悲劇には違いないのである。私的相対評価=☆☆☆☆☆ 魔神の歌(2017/5/5に書き直したもの)なかなか戦前の探偵小説だからこその作品と言える。 大雷雨の夜、どこからともなく聞こえてきた魔神の歌と共に行われた殺人事件という所がおどろおどろしい。しかもそれが証跡ともなっているのが面白い。 天才であれども性格破綻者のような博士が殺害され、博士その博士に対する容認派、非認派など博士同士の付き合いも絡まり、そもそも発見者は博士の妻と不義の主役。 容疑者はそれぞれ兇器の点、犯罪条件、動機、魔神の歌などで怪しい点があるのだが、これは石の殺人は意志の殺人であり、意志の伝わるものを介した恐るべき事件なのであった。 特に現在の人道やら道徳を超越した観点を持たないととても読める作品ではないかもしれないが、怪奇性、異常性、本格性の揃い踏みしている戦前の探偵小説の要素も詰め込んだ作品と言えよう。 私的相対評価=☆☆☆☆ (2001/7/4に記したもの) これは結構な秀作であると思う。大雷雨の夜、どこからともなく聞こえてきた魔神の歌と共に起こった殺人事件。容疑者はそれぞれ兇器の点、犯罪条件、動機、魔神のの歌などで怪しい点があるのだが・・・・・・・。石の殺人は意志の殺人であり、意志の伝わるものを介した恐るべき事件なのであった。怪奇性、異常性、本格性の揃い踏みした本格探偵小説。 私的相対評価=☆☆☆☆☆ 二人の自殺者相思相愛の関係は女の親の借金で終わりを告げ、残された男は田舎へ引き込み自殺だけが頭を支配するようになっていた。 そこに相場で失敗し、これまた自殺を考える紳士がやってきた。二人の自殺者の運命は? という展開。探偵小説ではないが、このタイトルの示すような死と不幸ではなく幸福も絡んでくる点が小説として面白いと思える点だ。 私的相対評価=☆☆☆☆ 犯罪の手口てぐちでなく、てくちと呼ぶ。かみそり政は完全完璧だと思っていたのに捕まってしまった。その後出てきた後に研究すると、ある本に犯罪の手口は人それぞれであり、それが元になって捕まった事が彼自身が例になって出ていたのだ。かきそり政は逆手にとって、自分らしくない犯罪を計画し実行にうつしたも・・・。さて犯罪の手口は逆手に取れただろうか!?私的相対評価=☆☆ 放送殺人数千万の聴衆の耳の前で殺人が!? という恐るべき事件発生。それはラジオでのニュース生放送中に起こった悲痛なニュース自身。しかもアナウンサーは声を残して消え失せたのである。文字通りに、彼はその怪放送の後、放送室に駆けつけた同僚などに発見されなかった。その間、数秒。神の妙技で犯人が連れ去ったのか!? それとも神なる自作自演だというのだろうか!? 放送中に来た謎の電話と脅迫状と相まって、この完全犯罪に如何に筋道を付ける事が出来たろうか!? まず、放送殺人という神秘的な謎の提出という点では、ずば抜けて良いといえる本格探偵小説だ。解決も含めてまずまずの作品と言えよう。私的相対評価=☆☆☆☆ 黒木京子殺人事件鉄道線路のすぐ傍にあるボロ下宿に黒木傳助と京子夫妻が引っ越してきた。その中年の傳助が若い京子へDVを働くことに関して下宿の女将は 自身の男に失敗した過去を思い起こして憤るのだが...。そんな中、京子と思しき女が轢死体となり、松原なる紳士が疑われ、そして傳助も危難に遭うなど事件は紛糾していく。 アリバイトリックや心理的な状況も絡む本作は少ない登場人物で探偵戯曲にも合いそうな劇的な展開をみせてくれる情深い作品となっている。 なお、章題は以下の通りとなっている。 第一章 傳助と京子(二階の借手、女主人の過去、訪問者、傳助の饒舌) 第二章 正一と晴美(轢死体、松原の登場、春美の訪問、生きている京子) 第三章 母の辛苦(ああ正一!、二階の惨劇、母の祈り、銀のカフス釦、赤地の誤解、大団円) 私的相対評価=☆☆☆☆ 犯人は誰か?七人は友人達は、博士の三回忌に集まっていた。そのうちには博士の元妻と現旦那も含まれている。絶望なまでの三回目の殺人事件考察。それは毎年行われているのだ。というのも博士の死は迷宮入りをしたが、犯人はこの七人にいる事は間違いないと言うからであるが、毎年不愉快でこそあれ、事件解決には全く進展が見られないからなのだ。一発の銃弾しか装填されていなかったリボルバー式拳銃は、博士の手の届かぬ所に転がっていた。そして銃声が鳴動した時、七人にはアリバイがある上に、瞬時に駆けつけた部屋には犯人の姿は皆無。窓は内側から、という怪事件なのである。狡知に長けた犯人は、どんなトリックを使ったというのだろうか!? 恋愛の絡んだこの殺人劇、トリック的には、まぁ、失望させるほどでもなく、面白い部類のものとも言えるが、どうも後処理の仕方が神業過ぎる感がしないでもないのが、少し難点かもしれない。私的相対評価=☆☆☆ 惣太の嫌疑惣太シリーズのラスト。間はあるとは言え、第一作から10年と考えると息の長いシリーズと言えるだろう。惣太の嫌疑では、惣太シリーズ初の殺人事件らしき事件が発生し、惣太は並々ならぬ立場を意識するのである。と言うのも、盗みをした家であり、自殺をしようとしていた書生を助け、そのピストルを預かったからなのだ。書生の伯父は拳銃で撃ち殺されていたというからもう大変。惣太は犯人を逃がしたのか、それとも他に!? トリックは馬鹿馬鹿しいユーモア仕様だが、これも惣太の人柄がゆえに、大きく紛糾させた事件だったと言えるだろう。私的相対評価=☆☆☆ 透視術ユーモア味もタップリのトリック小説。ここで言うトリックとは手品の事である。もっとも、その手品のレベルは、現在の目から見ると初級もいい所ではあるのだが。それに透視術を見破っての手品ではある。しかし小説としての書き方が面白いのが本篇なのだ。現代風な娘のじゃじゃ馬ぶりに辟易する父親、しかも娘は一芸に秀でた男に並々ならぬ興味を持つ傾向にあり、人をいきなり下の名前で呼び合うようなまさに現代人? それが透視術の使い手に惚れ込んでしまったのだから、父親何とかして、私立探偵を雇って身元調査に乗り出そうとしたのだが、矛盾した服装でホームズばりの探偵・江波三蔵、身元調査は自分には無理だとし、トリック見破りに挑むのだった。ともかくユーモアとウィットが面白い探偵小説であろう。私的相対評価=☆☆☆ 密輸入業者の最期どうもパンチが足りない意外性とペテン的要素の強い短篇。とはいえ、タイトルの付け方は絶妙で面白く思う。何せ全てを表しているのである。しかしやはり如何せん手法が十年古い感じだ。私的相対評価=☆☆ |