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マイクロフォン(八月号増刊「陰獣」を中心として)

甲賀三郎

 獣陰は未完結ではあるが、江戸川君が真面目に、力を入れて書いている気魄を感ずる事が出来る。 当然出て来るべき新進作家の活躍を待つ中間期に於て、この大既成作家の復活は我が探偵文壇にとって大いに喜ぶべき事で、 きっと大きな影響を与えると信ずる。江戸川君の文章の妙味は、敢て格段の進歩を見せないが、毫も衰えを見せず、 尚数回読み返えさせるだけの魅力を持っているのは、同君の為に慶賀すべき事であり、後進の以て学ぶべき事であろう。 文章の妙、構想の雄、筆力の勁の三者を以てし、枚数を顧慮せず、一路創作に邁進する事が、新進作家に望ましき事である事を、序ながらつけて置く。


(備考―管理人・アイナット編)≪新字体に変換≫
「新青年」昭和三年八月号増刊から新連載された江戸川乱歩『陰獣』第一回に対する感想である。なお、この第一回は【一】〜【四】章まで。また、いきなりの獣陰≠ニいうのは、原文のまま。単純に甲賀三郎の書き間違いだろう。