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日本人のよい所

甲賀三郎

 隣組は中々いい思いつきである。田舎には改めてこんなものは必要なかろうが、東京のような大都会には適切で、運用宜しきを得れば大きな効果があろう。
 この頃我々日本人が自由主義的だの、利己的だのといわれているが、当らないと思う。例えば電車の中など、中々席を譲ろうとしないが、一寸でも知ってる人だったら、すぐ席を譲り、譲らないまでも、身体を縮めて席を作る。然し、その後で、知らない他人にどんな迷惑を掛けようと一向平気だ。之が日本人である。
 つまり、日本人は没我的で中々親切なのだが、その親切は知っている人だけに止り、知ってる人に親切にする為に、知らない人間に迷惑を与える事を意としない。だから、日本中の人がみんな知合になって了えば、利己的な事は全然姿を消すに違いないと思う。
 先ず隗よりで、隣組は日本国中の人がみんな知合になる単位である。隣りに誰が住んでいるか知らないといったような都会の欠陥を是非正したい。それには、廻覧板を廻すだけでなくて、経費のいらぬ簡単な寄合を度々やりたいと思う。
 日本人は、自分だけ得をしようというよりは、自分だけ損をしたくないという国民で、案外無慾恬淡である。みんな同じ事なら、大抵の事は辛抱する。隣組組織はみんな同じ事である事を徹底させるに便だと思う。


(備考―管理人・アイナット編)≪新字体に変換≫
編集者の私見を述べさせて頂くと、結果的に隣組が密告の恐怖であったとは言え、対米戦以前の隣組制度の感想としては的を射てるし、現在にも十分当て嵌まると思う。現在でも災害時にはやはり近所付合がない弊害は大いにあると思うからである。日本人の親切の範囲は誠にもって現在にも言える事のような気がする。