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酔中漫罵(マイクロフォン)

甲賀三郎
  

△横溝正史――彼は我輩より十も年下だから呼棄てにして少[すこ]も関[かま]わないのでいる――往々にして酔中語を試みる。彼モダンボーイを以て自任する癖に酒に名を仮りて責任を回避せんとするのである。我輩又酔中に漫罵を試みると雖も彼の卑法は学ばない。喧嘩ならいつでも来い。素手なら仕方がない、対手[あいて]になる。
△前々号マイクロにて伊藤松雄君神の如き明察を以って甲賀三郎の巳年なる事を看破する。が、我輩の驚いたのはそんな事でもなく、又郷土研究者としての彼ではない。文壇フースヒーによると、彼は我輩より一つ年少なる事に一驚を吃[きっ]したのである。我輩は同君を年齢に於て買被っていた。爾今[じこん]年齢に於ては同君を尊敬しない事にする。近江国名所図絵によると、我輩の祖先発祥地甲賀郡には、往昔、甲賀三郎なる豪傑あり、武勲赫々[かくかく]、二兄之を嫉み、彼を一堂に誘[おび]き入れ火を四方より掛[か]く。三郎即ち神仏に念じ忽ち蛇体となって信州松代に逃[のが]ると。いづくんぞ知らん諏訪明神に合祀され居[お]るとは。ペンネームにしたのは少し恐れ多い事だった。
△不木君の長編、構想の雄大と叩けば火を発しそうな組立の緻密さに敬服する。但し読者をして五里霧中に彷徨せしめ、仮想犯人を想定するの暇なからしめるのは遺憾だ。この点乱歩君の新聞連載の一寸法師又然りだ。明智小五郎徒らに紋三と読者をジラすだけで、読者には比[たと]え間違っていたにせよ、ある特定の一人に疑惑を集注し濃厚ならしめないのは物足らぬ。我輩は探偵小説は少くとも中篇以後に於て数学で所謂コムパーセントでなければならぬと思っている。両君のは些かダイバーゼントである。尤も未だ中篇に達していないのなら詫る。
△小島政[まさ]二郎、マイクロに新年号金田一[はじめ]氏の外読むに足るものなしと喝破する。我輩敢て反対を称えないが、小島君、些か友達甲斐がないではないか。
△マイクロが長くなって、横溝正史が困るのである。又痛快ならずや。
△横溝正史よ。新青年はモダーンニュースと訳するのだ。モダーンボーイは新しき青年と訳する酔中漫罵終り。


(備考―管理人・アイナット編)≪新字体に変換≫
特にない。