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甲賀三郎・小説感想リスト昭和二年から同五年

惣太の意外

惣太は下宿させてくれる上に故買もしてくれる助五郎爺さんに依頼された。泥棒、特に惣太には珍しい注文生産だ。狙うは指輪。しかし惣太は狙った獲物という夜盗ではなく、狙った所から、生活に必要な物を盗むだけの夜盗ゆえにちょっと難しい感じもした。しかし助五郎には恩も感じているから、云々といった状態だった惣太は、電車に乗り込んだが、そこで注文に合う指輪に遭遇するが、それを狙うは惣太の忌み嫌う掏摸だったのだ。惣太はそれを阻止する活躍をするも、それが仇となって、自身に返ってきてしまう。惣太の意外、それは意外な被害者心理だ。惣太は救われる事になった意外! それは如何なるものだったか!? 惣太に女の不思議がまたも迫る一篇となっている。
私的相対評価=☆☆☆

錬金術

理学士である主人公は大いに疑いつつも、つい誘われるまま友人と錬金術を見に行った。錬金術がその研究出資金を募りたいための会というのである。その際、医者として参加したのが間違いの元だった……。高利貸し殺人事件で指が食いちぎられたというストーリーも絡ませた本篇だが、ペテン小説に少しだけひねりを利かせたものに過ぎず、錬金術詐欺は見抜けたが、人情詐欺は……、というもので、そう大したものとは思えない。 別題「錬金術師」。
私的相対評価=☆☆

黒衣を纏う人

最主要な謎が秀逸で面白い佳作。もっとも筋には理不尽な所が多いのが気になるところだ。眼の病気で病院に行き薬で視力が封じられていた際に起こった悲劇。この悲劇が、実は恐るべき喜劇であり、その状態での最低限度の悲劇であった復讐譚なのである。。
私的相対評価=☆☆☆☆

吉祥天女の像(連作の第一回)

甲賀は発端篇であり、探偵趣味の会の帰途に諸々のことを経て、死体に甲賀三郎が遭遇してしまう。謎の紙片と吉祥天女の像、その持ち主の令嬢、像の物質と謎だらけである。あまり関係ないが、甲賀は左利きのようだ。なお、最後は甲賀が死体発見を誤魔化そうとしたせいで、警視庁に同行させられた所で終わる。(その時、手紙を友人の牧逸馬に送っている)
次の牧逸馬は、結構話を膨らませる堅実なリレー。親友の横溝正史を巻き込んでやれ、と思って掛けた電話ボックスで敵の罠に落ちてしまう。三番手の横溝正史[まさし]はやや非正当な引継方。そのうちに横溝も昏倒してしまう。それを救ったのが、医者の4番手高田義一郎。被害者を医学解剖したり、増上寺へ。その最中病床の横溝は赤い紐を奪われる。五番手の岡田三郎は、高田の要請と巻き込まれたことから出馬。横溝の矛盾が多い所から付いていくが、最終六番手の小酒井不木はその岡田も加えて滅茶苦茶矛盾だらけのこの事件を何とか解決に持っていくことになる。不木の苦労、推し量るべしである。
全体としての感想は、小説は駄目だが、作家本人が登場人物になる所はかなり面白いものがあった。
私的相対評価=☆☆☆

魔の池事件

S町のD坂を舞台にしたという「琥珀のパイプ」の主人公の春日良三が巻き込まれた事件で、あの名前初登場、怪盗・葛城春雄も大活躍。「琥珀のパイプ」の直接的続編である。本格ミステリでお馴染みのあるトリックを効果的に使った完全犯罪。例のごとくの言い訳から紙数の都合とやらで「魔の池事件」の一部しか収録できなかったとのことで、中途半端でもある。春日良三の下宿に来た女は奇妙な憂いもあるが、基本的に到ってまともな女事務員。ところが、その彼女が魔の池事件で拘引されてしまったのである。そんなとき三年ぶりに春日の所へ葛城が現れたのだ。春日は下宿人繋がりでその後、怪奇な雰囲気である封建的な田舎の旧家へ行く事になるが、そこで知ったる遺産問題、そしてその渦中にいる当主の死。しかも春日はどういうわけか鉄槌とそれを持つ遺産相続候補の姿を目にするのである。しかしそれが幻のようで、同時に二人いるというような怪奇。はて葛城の仕業なのか!? というような息つく暇無い面白さ。あの葛城も活躍しつつも大苦戦でいよいよ面白いと思うところで尻切れ蜻蛉なのが、残念なところだが、そのトリックといい、妖しい感じといい、法律的部分と言い、秀作であるのは間違いないところであろう。
私的相対評価=☆☆☆☆☆

支倉事件

実際の犯罪の記録文学である。探偵作家の書いたものとしては最古に位置する。前半は痛快な犯人と警察のやり取りが描かれており、甲賀の筆の巧さもあり、なかなか愉快である。ただ後半はかなり冗長で更には視点が警察、検察側からであるので、全くフェアとは言い難いような気する。ちなみに現在の刑事訴訟法であれば、証拠不十分であり、自白偏重主義である当時の刑訴事情を知る上では興味深い。ただ、これは記録文学としての興味であって、甲賀の創作の興味とは異なるので注意が必要である。この作品をもって、甲賀の代表長編とするのは安易であり危険な判断としか言えず、その理由を一言で言うと、この記録文学に一般の甲賀の創作らしさが表れているわけではなく、それに何より創作ではないからである。
私的相対評価=☆☆☆☆

幻滅

ある金持ちの男がある女に幻滅するまでの話。いや、決定的なその証拠を掴む話で、その過程はまさに気の毒である。主人公は自動車を手に入れ、女と知り合った。その主人公は女に利用されただけながら、最後に一人得することになったが、やはり哀れなのは金持ち男なのである。一言で言えば単なるユーモア物にすぎないが、二人一役のトリックがここまで効果を上げてしまうとは、ある意味で悲劇。
私的相対評価=☆☆

誤りたる道

借金でどうにもならなくなった宝石商の主人。大阪に送った番頭さえ戻ってくればなんとかなる所だったのだがそれも遅すぎたのだ。指環直しの奸計に引っかかった主人は人生最初の誤りたる道によって、破滅したのである。まぁ、単なるペテン小説を少々ひねった程度だろう。
私的相対評価=☆

荒野

名探偵木村清シリーズ。新婚の二人は早速旅行に出掛けるも新妻がなぜかある田舎に行きたがった。そこには謎が伏在しているという。その実際の謎は大したものではなかったので、些か物足りなかったものの、それなりに痛快味も感じた。少し思い出したこと、作品中に「幽霊塔」のある要素に影響を受けている感じもした。この予感が正しいとすれば、それはもちろん、この時代だから涙香の「幽霊塔」だろうが。
私的相対評価=☆☆☆

敗北

秘密毒ガスの分析。これを依頼されたのは主人公とその恋のライヴァルの理学士の二人だった。しかも主人公の橋田理学士は強迫観念に囚われ、ライヴァル瀧田理学士の研究所に忍び込んでしまうが・・・、その結果待っていたのは完膚無きまでの敗北の二文字だったのである。ああっ、何という危険負担であったことか! しかも生きてなお絶望なのである。
私的相対評価=☆☆

生ける屍

私立探偵・木村清シリーズ。珍しく読後感がとてつもなく暗いものになっている。生ける屍は所詮屍ということだろうか。カフェに稀に現れるみすぼらしい服装の老人。しかしなぜかお金持ちのようである。主人公も生ける屍のごとしだっただけにその老人に興味を抱き幻想を抱いた・・・・・・、このように不思議な話で専念すれば良かったのだと思うが、木村清の登場は全てを台無しにしてしまった。謎々も下らないものに過ぎない。
私的相対評価=☆

ダイヤモンド

超高級ダイヤモンドが遺失物として 、警察に持ってこられたが、なぜかその持ち主と思われた伯爵家からは何の連絡も返ってこない。逆に野次馬的な問い合わせが多数あるばかり。しかしこのダイヤには驚くべき秘密が隠されていたのだ。謎の女と突如として贋物になったダイヤ・・・、それそもダイヤの秘密とはいかなるものだったのか。科学小説的な部分もある探偵小説。
私的相対評価=☆☆

拾った和銅開珍

木村清シリーズの傑作である。心理的に属するアリバイトリックがお見事であり意表をついている。和同開珍の謎については結局わからず仕舞いなのが、少々不満であるが、主人公が子供時代に拾った和同開珍を巡るこのミステリは本格として大いに評価出来るだろう
私的相対評価=☆☆☆☆

菰田村事件

美事な秀作中篇ではないか!菰田村という舞台で、村人から信頼されている大地主を中心に事件は展開していき、村人の証言や遺留品と言った本格物の常道を上手く、そして効果的に利用するという手腕はさすがである。更に恋愛や感銘などなどのような追加要素を付加することで最終的な読後感も大幅に増進していると言って良い。メモ程度の蛇足だが、あまり意味なく珍田徳清という私立探偵が登場している。
私的相対評価=☆☆☆☆

正太郎の手柄

少年物である。しかしさすがは甲賀であり、少年物でも、謎を提出し興味を持たせる。もっとも大した謎でもないし、解決も早足過ぎる感があり、そこで首を傾げる部分もでている。泥棒暗躍する中で、正太郎の父が謎の中心に添えられるが、果たして!? そして正太郎少年の手柄とは!? 関係ないが、正太郎と聞くと、必ず少年を思い浮かべてしまふ。
私的相対評価=☆☆

原稿料の袋

甲賀三郎に擬せられた探偵作家の土井江南が、満谷潤(水谷準)と床水政司(横溝正史)が付き合ってくれなかったばかりに、そして更に井戸川蘭芳(江戸川乱歩)の影響を受けて、夜中の浅草を珍しく彷徨き廻ろうなどと考えたばかりに遭遇した怪事件。愉快度・痛快度は圧倒的であり、「琥珀のパイプ」などでお馴染みの葛城春雄を登場と、原稿料の袋の謎の解明、土井江南の絶体絶命の危機などなど面白い作品だ。
私的相対評価=☆☆☆☆

畳を盗む男

大掃除の家から畳が盗まれるというナンセンスな事件。しかも同じ畳屋の所からの畳が切り裂かれるという事件が以前に二つも起きているのである。紺野刑事は怪しみだして調査に乗り出すが・・・。お馴染みの葛城春雄シリーズで、この作品も手紙で解決してみせる所はさすがである。以前と以後の二つの殺人事件が絡むこの事件の解決はいかなるものだったか。なかなかの面白さと言えるだろう。
私的相対評価=☆☆☆

日の射さない家

単なる怪談話と思いきや、意外な真相が。怪談らしく思っただけに妖異な展開で、死んだ姉に似た大根洗いの女、文字通り日の射さない陰気な幽霊屋敷の白い顔といったものが出てくる異様さで、最後のトリック判明で怪談が、探偵小説に変ずる所も面白いポイントだろう。
私的相対評価=☆☆☆☆

ほんの2ページの掌編。面白味も少ない。悪意の嘘ではない嘘の結末は・・・!?
私的相対評価=☆

理学士の憂鬱

変格物。詐欺の被害記事を見て、憂鬱になった理学士。それは何と羨ましいからだった。恥ずべき羨望。男は自身の収入の少なさから考えて、そう思ったのである。しかしその渦中に巻き込まれてしまうことになり、親切のつもりが更なる憂鬱をせしめたのだった。
私的相対評価=☆☆

人造絹糸

春田能為名義のユーモア科学小説シリーズの第一話。登場人物の別尾紫蘭、別尾菊子、理学士の陸津説男の名前自体がギャグである。さて、内容は今の時代に読んでも仕方がない気がするが、人造絹糸ことレイヨンの作り方を面白可笑しくユーモアを交えつつ説明する科学小説。生糸輸出で強力な日本に将来対策が必要だゾ、ということも示唆している。
私的相対評価=☆☆

セルロイド

春田能為名義のユーモア科学小説シリーズの第二話。セルロイドはどうして燃えるのか、をユーモアを交えて科学談義。ユーモアが面白い。
私的相対評価=☆☆

井戸から上った怪屍体

探偵実話とのこと。確かに怪奇実話らしい読み物ではあるが、「私」が登場人物として活躍しているのを見ると、本当かな!と思う点もある。話は失踪した兄弟二人と井戸の怪屍体の謎である。
私的相対評価=☆☆

惣太の受難

久し振りで町に出た惣太は受難に遭遇してしまう。と言うのも、警察警察と言われて、つい夜盗であるはずの彼が、警察の弱味から、全く身に覚えの無いはずのトラブルから逃れると言った塩梅というわけなのだ。それは情けなくもあり、しかもあげくに金まで取られてしまうといった状態だ。その惣太、物語の最後では警察にいるが、はてここに至る面白さがあるのだ。三年間、主人の娘を探し続けている雇い人、それは自身のミスによるところもあったが、惣太が遭遇した受難がこの事件にリンクして、惣太は真に心優しきおじちゃんになったのである。相も変わらぬユーモア的展開はもちろん、ちょっと人情ある温かい活躍が面白い。
私的相対評価=☆☆☆☆

空中窒素

春田能為名義のユーモア科学小説シリーズの第三話。今度は食糧問題肥料問題に言及。それを解決する技術として空気中の窒素が登場する。
私的相対評価=☆

暗号研究家

名は不明としてあったが、葛城春雄シリーズである確率が高いように思う。何でも「編輯局より」の横溝正史の文章によると、「琥珀のパイプ」の姉妹篇だよ、と甲賀自身が折紙を附けたとのことだからだ。良く言えば、それだけの作品だけに面白くあったが、ある意味では、新鮮味に欠けた同じ手法に過ぎないとも言えるだろう。三枚の暗号の行方と二つの怪死事件とアザ、そこに宝石と関わる謎と、謎々に充ち満ちた本格である。残念な点は暗号そのものを読者に考えさせる余地を作らなかったこと、つまり暗号がプロットに組み込まれているだけで、文中に登場しないのである。これが題名が題名だけに不満に思える所だ。
私的相対評価=☆☆☆

公園の殺人

圧巻の冒険推理サスペンスである。怪盗・葛城春雄の活躍する恐らく唯一の長篇であろう。プロットの複雑さではまさに敵なしの甲賀三郎ならではの展開であり、最初に死体を乗せた自動車事件で始まる謎は深まるばかり。そしてある財産を巡る三つ巴、四つ巴の争い。ラストの意外な真相には思わず感動すら湧き起こる。関東大震災の悲劇の巻き起こしたこの事件の恐るべき悪魔のような犯人は、果たして!? なお、いつも思うことだが、電光石火の理化学トリックも甲賀三郎という作者を考えれば、推理の範疇に入ることであり全くアンフェアではない。ましてこれは昭和三年なのである。まぁ、誉めてばかりもなんなので、少し難点をあげると、些かこの時代でも本格とは言いがたい点だが、ホームズ的というより、ルパン的なものを狙っているのは明かであるし、となるとルパンは冒険推理であるのだから、この点で非難する方が的はずれだと思う。
私的相対評価=☆☆☆☆☆

化粧石鹸

春田能為名義のユーモア科学小説シリーズの第四話。良い石鹸と悪い石鹸の差と作り方。
私的相対評価=☆

眼の動く人形

手塚龍太初登場作品である。「眼の動く人形」と最後の言葉を残して死んだ男のから推察された謎とは!?皮肉的ユーモアと手塚の悪魔的な手腕がなかなか面白い探偵小説である。
私的相対評価=☆☆☆

瑠璃王の瑠璃玉

連続ブルドック殺し事件から始まったこの事件は、手塚龍太シリーズ第二作である。発端、隠し方のトリック、探偵犬と興味深い事象もあるが、結末が大したことないばかりか、例のごとく変な言い訳の元に中途半端に終わってしまっている。それと朝鮮への差別的表現が時代とは云えあったことが残念に思えたことだ。
【追記】再読してみると、少し印象が変わったので評価も一つアップさせた。打算的とは言え龍太の人助けであるし、しかも国際援助だ。これを続けていれば、筋が展開されているだけにもう少し面白くなっていたのに、と思う。
私的相対評価=☆☆☆

深夜の貴婦人

これは馬鹿馬鹿しいとしか作品である。そもそも探偵小説失格である。華族という縛られた身分の人々の論理が展開される話なのだ。もはや古臭い以上の問題である。しかも眼前にして怪盗でもない素人を、恋人と勘違いするだろうか? この点が最悪の設定であり、また全く探偵する描写も無い事が失格の原因と言えよう。事件は深夜の警察の職務筆問から始まる。にもかかわらず貴婦人は名前を告げない。あげくに血も衣服に付けているのである。その夜、ある映画女優宅裏口に血だらけの死体が転がっていた。宅内には血と形跡のみで無人。貴婦人の息子は恋愛関係と目撃で断然疑われたが、本人は知らぬと言う。はっきりいって、繰り返すが最低の出来である。
私的相対評価=☆☆☆

すべてを失つた話

ユーモアだが、全く面白くない。ある出世だけを目指し、上司に媚びへつらう男が、一つの失策から奈落に落ちる話である。
私的相対評価=☆

浮ぶ魔島

これは真に純粋なるSFの傑作ではないのか。甲賀三郎が昭和三年の段階で、これほどのSFを作り上げていたとは。この手のSF長篇では海野や蘭が思い浮かぶが、時代的に対外戦争を考慮に入れていない段階での本作こそ純粋なるSF活劇と言えそうだ。動く岩礁や海底からの酸素、そして主人公夫婦にとっての仇敵の消失。干潮時のわすかの時間のみ行けるこの奇妙な場所。そこを調査すべく主人公夫婦は足を運ぶが、それが地底の暗黒の科学帝国に迷い込む事になろうとは!? エスペラントを操る猿のような変性人間、二十馬力の機械人形、人造食糧、音声変換タイプ、脳に響く声などなど、SFの要素満載なのだ。人格否定し、機械至上主義者の王を相手にどう展開していくというのか。このSF活劇は、その先進的SF手法への興味に加えて、単純に面白いのである。
私的相対評価=☆☆☆☆☆

ニウルンベルクの名画

怪異な容貌をした弁護士・手塚龍太の探偵譚。この手塚龍太は怪異なだけでなく、恐るべき打算で動く如何にも人間らしいキャラクターなのである。さて、この「ニウルンベルクの名画」殺人事件だが、複雑に絡んだ謎が面白く、隠された真相が痛快なのである。
【追記】再読に関してもう少し書くと、独逸描写がさすがに美事であり、関税官吏を暗に非難しているのも面白い点。
私的相対評価=☆☆☆

金魚の頭

トリックの効果と言う意味で、ドイルの某短篇を彷彿させる作品で、無電[ラヂオ]小僧登場作品でもある。金魚の頭というタイトルはまさにその通り。猫キチガイ被害者宅での全猫の消失と取るに足らないと思われた金魚の頭から、或る殺人事件の真相を見破り、更に市井で起こっていた謎の怪奇、金魚泥棒事件の秘密も解かれたのだから、恐るべきである。書生さんは金魚を料理するなど、気でも狂ってしまったのだろうかと思いきや、それも、まさに鮮やかな手つきの一シーン。この金魚の頭、謎のある本格探偵小説として、これも十分に佳作として位置出来る作品であろう。
私的相対評価=☆☆☆☆

水晶の角玉

この美事なまでの力学を利用した物理的隠し方のトリック一つだけ取っても、戦前の日本の探偵小説の中でも名だたる誇るべき逸物という事が出来るだろうというのが本作、水晶の角玉。主人公の父親の老実業家は碁盤を弄くっていたが、突如その足が一本スッポリ取れてしまった。と、そこに見付けたのが奇妙な角形の跡、しかも残りの足の部分には謎のような文字が刻まれていたのである。更には骨董屋で展示してあるのに売らないと言い張る水晶の角玉、これが碁盤の跡にピッタリと来そうなのだ。その後、息子がこの案件を任されるが、そこで見かけた美しい婦人、水晶の角玉を巡るもう一つの流れと交わり謎が全面に出てきつつ、実に見事な隠し方のトリックに辿り着くのである。筋も自然に流れるし、非常に快い本作は面白いの一言なのだ。
私的相対評価=☆☆☆☆

傍聴席の女

手塚龍太が打算無し?で動いた異色作であり、秀作法廷探偵小説だ、と言ったら、誉めすぎだろうか!? もちろん難を言えば、材料的に些か本格度は弱く、不合理なな所もはっきり言えば多いのだが、目眩く展開力は美事であり、傍聴席から現れた手塚龍太弁護士の推理に及んではまさに最高潮だ。それにこの物語によって、手塚が警視庁においてもそれなりの力を持っていることも判明するし、官尊民卑の当時の風潮においては、陪審制度はナンセンス的に不適だというのを皮肉的意味で訴えている感じがするのが好ポイントになるだろう。
【追記】再読して思った事は、これはやはり大した本格であると言う事だ。上記の難は少し当て嵌まらず、言い直す必要がある。一々評価は変えないでおくが、随分面白い解決と言える・それに甲賀三郎最初法廷探偵小説かも知れないし、官尊民卑非難だけでなく、警察対人民の関係も同様に非難しているにはさすが欧米を見てきた甲賀のセリフとして貴重だと言えるだろう。
私的相対評価=☆☆☆

丘の上

幼い頃に父が家屋敷を売り払った没落地主の主人公は、古道具屋に通い詰めるために、無駄に買い集めていた。その努力も手伝ってか、幸いな事に共通点もあった古道具屋の娘と仲良くなったのだが、その花瓶をめぐって殺人事件が発生。犯人と目されたのは古道具屋の唯一の手代である。しかし調べていくうちに奇妙な事が起こりだし、古道具屋の各種道具の中から暗号の紙片が幾つも出てくると言う不思議。恋愛心理をも主要に大いに絡んでいる本作は、犯人捜しは重要ではない。花瓶をめぐる謎と、暗号の秘密にこそあるのである。もっとも、殺人についてはこの描き方は不自然であるし、慈善行為云々は明らかに不必要としか思われない描写なのが、難点であるが。
私的相対評価=☆☆☆

吹雪の夜[よ]

吹雪の真夜中、主人公は懐に大金を入れていた。盗んだ金である。人殺しをもやってしまっていた。吹雪それが悪かった。彼の言に矛盾が生じたのもこのせいで、ペテンの話術に掛かったのもそのせいだった。一応倒叙形式の探偵小説と云えなくもない。
私的相対評価=☆

緑色の犯罪

緑の手紙なる幸福の手紙の親戚の流行など他、緑色ばかりに狂的な興味を持つ緑キチガイが指し示すものには、現実的にはあの恐るべきトリックが大いに関係していた。この驚きは如何様であったろうか。殺人事件の連関なども興味深いこの作品には、お馴染みの悪意溢れる手塚龍太も登場し、相変わらずの自身の計算の元にこの事件の真相を暴き出す秀作。
私的相対評価=☆☆☆☆☆

樟脳の煙

これもパターンからして何となく葛城春雄らしい怪盗が出てくる探偵小説である。孤児院関係者への謎の物色事件と巧妙な宝石盗難事件が絡み合うという展開で、加えて殺人事件が発生する。そこが些かご都合的でもあるが、樟脳の煙からの推理は面白くもあるだろう。
私的相対評価=☆☆☆

女を捜せ

読み方は《シェルシェ・ラ・ファンム (Cherchez la femme! )》フランス語である。
犯罪を探し求める男の物語。犯罪の陰に女あり、という法則(ことわざ)のようなものを逆説的に解釈し、彼は女を捜して、求める犯罪にぶつかる、という奇人である。その彼は主人公の友人。感想としては、本格としての材料提出など面白い面も多々あるが、どうも頂けない部分が多い気がする。そもそも題名の暗示が全然重要視されていないのである。それに中編という長さの割にどうも結末も大したことのないあっけない感じもある、それに過去の事件の探索と言うせいでもないだろうが、何か探偵小説的魅力を欠いてるような気がする。もちろん怪奇味がないとは言わないし、謎もなかなかクロスしていて面白いのだが。
私的相対評価=☆☆☆

消え失せた男

木村清活躍譚であり、意外な謎が面白い話。木村清探偵事務所タイピストの加藤美津子が女探偵として活躍し、その木村探偵と美津子のやり取りも少し面白い。ある殺人事件の被害者の家で女探偵美津子と山田名警部が追跡していた全く別の事件の犯人と寸分違わない男が消え失せてしまった。その消え失せた男の謎と殺人事件の真相が絡み合っているのである。
私的相対評価=☆☆☆☆

富豪の証明

タイトルの意味は富豪が証明してくれたアリバイのこと。ある殺人事件の犯人は明らかだというのに、社会的に善の信用ある富豪と一緒にいたというアリバイは完璧。しかし真相は馬鹿馬鹿しいもので、駄作であろう。
私的相対評価=☆

強盗

大言壮語した手前、自らの理論に従って主人公は泥棒に真正面から論戦を挑んだのだったが、説得してなお、当局に訴え出てしまったのが運の尽きだったのかも知れない。後者は比すべくもなかったのである。主人公は哀れに体よく危機負担に利用されたのだ。ああっ強盗を甘く見るなかれ。
私的相対評価=☆☆

奇声山

全然大したことはない。奇声山というのは、角力が弱いことと、奇声で謡う持ち主だから付いたあだ名であり、これはその奇声山が臨時雇いから、准社員になるために仕組んだ奇計の物語なのである。ユーモア探偵小説であるのだろうが、でもやっぱり凡作に過ぎない。
私的相対評価=☆

池水荘綺譚

銅羅門武龍男爵は由緒ある英国貴族・男爵様である。そう、英国男爵。そして養子として兄弟の子供、讓次と瑠璃子がいるのだ。なぜか英国を舞台にしているので日本語名を使用しているのは全登場人物に通じる事。話自体は、英国とは特に関係なくその意図は謎である。リュパン風の愛とサスペンス探偵小説で、甲賀流の結末方法は快い。讓次は大尉をしていて久々に帰宅したが、不名誉な撤退を命じた挙げ句部隊を全滅させたという話が拡がっていて、武龍から追放を受けてしまう。ある部下に陥れられたと感じた讓次はなんとか濡れ衣を解いて名誉を回復するべく考えるが、そこに疲れ果てていた讓次を泊めてくれたのが池水荘だったのだ。そしてその日に起こっていたもう一つの事件。それが土井禮の脱獄だった。彼も又陥れられ、結婚式の日に恋人と引き裂かれただけでなく、牢獄に入れられていたのだ。しかも恋人はそれが原因で気が狂ってしまっている。何という不幸か! その恋人を保護している男、それが池水荘におり・・・、という展開で、不名誉返上の闘いと恋人との幸せを得る為の闘いが始まるのである。知恵と知恵の勝負。更には別の復讐者も現れ、意外な味方も手に入れる・・・。さて、どのような道が彼らの名誉の回復の前に待っていただろうか! なかなかハラハラさせられるサスペンス小説で、英国設定には謎過ぎだが、面白いと言えよう。ただ綺譚というタイトルほどに奇を感じる事もなく、どちらかと言えば、奇怪というより、現実的に近い小説であるし、池水荘という館で殺人が起こると言う事も全くないなど、期待すべき探偵小説には些か物足りない部分も多いと言える。そう、殺人がない探偵小説で悪漢の秘密を完全暴露し、その結果主人公たちを幸福にするという話なのである。それでも特に兄弟姉妹親子などをキーワードにこの池水荘綺譚では仁愛と決裂、そして恋愛力などが絡んでくる面白さがあり、感動を呼び起こすのだ。
私的相対評価=☆☆☆

短銃・宝石・短銃

日曜のページのラジオドラマ、として掲載されていた探偵戯曲。短い戯曲ながら面白い展開である。探偵の持っている紅玉[ルビー]を狙う悪漢。短銃の向け合いと毒の心理戦、そして意外!エッセンスは十分揃っている。
私的相対評価=☆☆

隠れた手

やや長めの中篇と言うべき本格探偵小説。恐るべき隠れた手の犯罪。主人公の高浜が巻き込まれた、というより結果的に演出することになった二つの紙片の謎。政治家への道にある悪習が引き起こした恐るべき悪意。犯人と複雑なプロットに支えられた真相とは!?
私的相対評価=☆☆☆☆

風のような怪盗

義賊葛城春雄の活躍譚。吝嗇家の金貸の鷲山という男は相手の弱味を握り脅迫して強請るという最悪の犯罪者。義賊がそれに動いたのだ。風のような怪盗、出入りした形跡がないのに策動する恐ろしさ。さすがは葛城春雄だと言うべきなのだろうか!? さて、この事件に襲われた大河原夫人の運命は!?
私的相対評価=☆☆

発声フィルム

完全犯罪のアリバイ作りの最高の手、それが発声フィルムであるはずだった。しかし異様なところに陥穽があるもので・・・・・・。
私的相対評価=☆☆☆

幽霊犯人

通俗味は些か強すぎる感もある新聞連載長篇。親子喧嘩をしてしまった直後に、父親が殺害された。しかも第一発見者が息子であり、銃声直後にも関わらず、犯人の姿が部屋にはないのである。しかも立ち込めていたという煙。そして扉以外では脱出路になりそうなところは窓しかないのだが、そこには伯父と秘書がいて、犯人が逃げられた道では有り得ないのである。更に悪い事には、親子喧嘩の原因たるのが息子の恋愛であり、息子が、金持ちの兄(息子の伯父)の後継人になるだけあって父親はその恋愛を許せずに、その恋人を、時を同じくして起こった宝石指輪窃盗事件の犯人だと決めつけてしまい、その娘は結果的に失踪したあげくに崖から身を投げたとまで考えられた事で、息子は父親殺しの廉で窮地に立たされてしまったのである。さて、この場合に息子が犯人でないのは探偵小説の常道であるが、といえども、見えない幽霊犯人の正体は一体誰だというのか!? 確かにトリックだけを見れば、甲賀三郎十八番の理化学的トリックが炸裂しており非常に面白いのだが、それは中篇ならともかく、これ一つで長篇をもたせるにはかなり退屈を感じざるを得ないと言える。しかもプロット中に偶然があるのは、無駄を省くという言い訳がたつが、決定的場面で、全くの偶然、探偵にも犯人にもわかるはずがない偶然が起こって、決定的証拠を得るに到るいうのはいくら何でも頂けない所である。つけ加えて言えば、ある犯罪は解決したが、将来的に考えて、この一家的には何の解決にも繋がっていないというところも大問題としか言いようがない。探偵小説的には無関係といえども、見逃すのはどうかと思う。と、新聞連載だけにこのように欠点だらけの長篇である。これは甲賀三郎長篇の中は駄作の部類に入るのは致し方ないところと言える。幽霊犯人のトリックは面白いだけに全然効果的に生かせず残念なところだ。
私的相対評価=☆☆

惣太の求婚

爆笑ユーモアものである。いつものように盗みのスタンスで対立する禿の勘兵衛と口喧嘩をした惣太、意味もわからず、二人なら二人暮しをすると言ってしまったことから、興味ゼロなのに所謂結婚相談所で女房を捜してもらうことになった。そこで行われた爆笑ユーモアとは!? 惣太は気早で馬鹿正直なもんだから、騙されて恥をかかされる所を、反対に相手の女と母親が謝る羽目に陥ったのである。なんて面白い奴なんだ、惣太よ。それにしても餡麺包[あんぱん]娘とは・・・恐るべし。
私的相対評価=☆☆☆

郵便車の惨劇

拐帯犯人が乗っているのだという列車を待ち受けていた柏木警部と杉原潔探偵、しかしその列車の郵便車では惨劇が上がっていた。二人いるはずの乗務員の一人が行方不明で一人はクロロホルムを嗅がされ半死半生。しかもその口には突如姿をくらます杉原探偵の真意とは・・・!? 鉄道ミステリ。
私的相対評価=☆☆☆

鍵なくして開くべし

甲賀三郎自身を擬した 探偵小説家・土井江南とお馴染みの怪盗・葛城春雄が活躍。隠し方のトリック+αを扱ったものとしては、なかなかもっての本格秀作である。土井江南やらが数度にわたって騙されるユーモアも面白いし、どんでん返しの連続も最高なのである。さて、守銭奴の残した膨大な財産の行方は如何になったのか!?
私的相対評価=☆☆☆☆

蜘蛛

甲賀三郎の真骨頂の理化学的トリックを最も効果的に使うと同時に、蜘蛛という怪奇異様性の美事な融合。いや、この順序は反対にすべきか、蜘蛛あってこその恐るべき犯罪なのだ。殺人事件と事故の真相とは如何なるものだったか。間違いなく秀作。
私的相対評価=☆☆☆☆☆

法師を殺した熟柿の話

ちょっとした小話程度のもので、《途方もない話 珍無類の話》と言うコーナーの一つ。承久の頃のある寺院対強盗。そこで法師は頭に落ちた熟柿[じゅくし]に勘違いし、介錯を頼むというブラックユーモア。
私的相対評価=☆☆☆

殺人未遂者の手記

これは読ませる文章が圧巻のなかなかの秀作短篇探偵小説である。こういうものがまだあるから面白いのだ。話はリアリズムの探偵小説系統で列車を使ったアリバイ創案も登場。大型金庫の部屋で窒息死させようとした殺人未遂者の計画は、その通り破れ去ったのだが、その理化学メカニズムとは・・・・・・!?
私的相対評価=☆☆☆☆

真紅の鱗形

不良少年勇の万引きを目撃した政子から始まる本篇。読み終わってみると恐るべき伏線だと気付くのであるが、真紅の鱗形団なる怪盗一味有り、政子の父親も脅迫され、江口探偵の活躍も虚しく、遂に殺害されてしまった。この江口探偵、第六感が卓越しているという頗る非論理的な名探偵なのだが、ここは流石は甲賀と言うべきで、納得行く怪盗を用意しているのが嬉しいところ。また本篇は少年物にも関わらず複雑なプロットは甲賀の独壇場と言うのを見せつけてくれる。さて、時の政府にまで挑戦した真紅の鱗形であるが、その秘密は真にもって、よくある使い古されたトリックで、驚くには当たらないが、付加する所の威力は大したもので、面白く感じるのである。少年物の意表を衝く展開から、まさに全篇通じてのトリック! これは意表外という意味では佳作長篇と言っても差し支えはないだろうと思うのである。
私的相対評価=☆☆☆☆
   

謎の三色菫

奇蹟の夢中遊行の時の手記が事件解決の糸口になると言う冗談のような非合理。いいのか、こんなことで。三色菫を中心に紛糾していた事件も三年越しの解決を見たのである。最初は面白いが、どうも非合理が頂けない。怪奇系ならそれ一本で行くか、合理の意外性を発揮すべきで、これはどっちつかずの変な中途半端な作品になってしまっている。しかこれも怪奇オンリーの一種なのかな?
私的相対評価=☆☆

お初桜事件

少年物。しかしそうとは思えぬ位面白い本格物である。子供へ向けて、作品の底意に流れている考え方も良いし、その本格構成、金を持ち逃げして失踪していると思われる謎を、探偵役の森君が論理的に解くあたりも面白いではないか。探偵犬の活躍も面白い。
私的相対評価=☆☆☆

毒蛇

謎も論理性もない怪奇小説である。村に突如帰ってきた主人公の父親は、大金持ちになり、そして偉大なる金の利用法をした。その死後、主人公が見付けた手記、それは怪奇千万な物語であったのだ。そう余りにも出来すぎた毒蛇ストーリーで、怪奇な感じを受けたのも最初だけだったと言って良く、最終的に大した効果は認められない。父親は独立すべく村を飛びだし不景気の為に自殺を考えるまでに失望を味わったが、謎の老人に誘われるままに、テクテク着いていったのだが、それも良くあるパターンであった。しかし面白かったのが、老人の妻の秘密。これが怪奇の唯一面白い点だ。ミイラに愛される男、父親が演じたのはこれなのだ。しかも正体たるや何という運命! 襲いかかる毒蛇、老人とその娘の口笛は争いのである。しかしやはり大したことない。
私的相対評価=☆☆

贋紙幣事件

少年物。上記の「お初桜事件」と同様のシリーズ。犬の足の色の汚れというか、跡というか困るが、それを先駆けに、またも森春雄少年が謎を解き明かし、級友の危機をまたも救う。これも謎と論理で構成された面白い小説だ。
私的相対評価=☆☆

幻の森

葛城春雄チックな怪盗が出てくるが、定かではない。幻の森にある井戸の中に財宝があるという夢を見たという男が、無理に主人公に頼んで、一緒にその森へ行き、宝石を手に入れるものの、突然その作業中に死んでしまった。何と毒ガスにやられているのである。この謎は如何なるものかという理化学トリックもの。しかし怪奇性とトリックの複合効果が今一つ。・
私的相対評価=☆☆

救われた犯人

暗黒紳士・武井勇夫シリーズ。父親に不正して、首飾りを送った息子は逮捕されてしまった。父も非情であり、母親は何とか息子が不正して作った金を補填し、息子を救出するために、女から首飾りを返してもらおうと懇願するもはねのけられてしまう。さて、その女は音楽会の主役だが、春山探偵に頼んで、首飾りの警護をしてもらうが、ついに警備していた部屋で盗まれてしまったのだ。しかしそこはさすがは春山探偵、自動仕掛けの写真機でパシャッと犯人を捕捉、暗黒紳士もこれまでだと、自信タップリなのである。武井は犯人よりも首飾りを唱えるなどするが、さてさて救われた犯人とは!? 暗黒紳士の事であるのか!? いやいや暗黒紳士はそんなへまはするものか、なのか。社会の暗黒面を救う暗黒紳士はその役目を果たせただろうか!?
私的相対評価=☆☆☆

離魂術

最初、なんじゃコリャ!? と焦ったものだった。というのは、迷宮入りした三重殺人事件の解決のために、心霊術師が降霊術を行い、その所謂霊が霊媒を通じてナレーターになったからである。ところがどっこい、中身は海野十三と小酒井不木を足して二で割ったような怪奇SF小説ではないか!なかなかの秀作短篇だと思う。この話は、いわば「生きている霊」とも言うべき話で、悲劇でもあり、恐るべきユーモアでもある。甲賀の異色作なのは間違いない。ところで離魂術というのは肉体と魄を分離するもので、医学博士が扱う薬品によってなされる。所謂幽体離脱と仮死状態の肉体になるわけだ。そして魄は一般的な幽体よろしく自由行動が出来るが、当然普通人から知覚認識は不可能だ。また元に戻す場合はその死んだような肉体に還元剤を施す。この離魂術そのものは永久の魄の生存を目的に発明されたものだったが、実際の話は当然ながら不合理で目茶目茶なのはいうまでもない。だが、愉快なのである。あるいは、この筋は熱烈なコナン・ドイルファンの甲賀だからこそ考え得た怪奇SFだったやも知れぬ。
私的相対評価=☆☆☆☆

江川蘭子(連作の第3回)

この連作小説については、「乱歩の世界」の小説紹介があるので、こちらを参照してもらいたい。
更には、ネタばれ感想はこちら参考。これは既読の方のみご覧ください。
私的相対評価=☆☆(甲賀三郎分)

無人島の殺人

富裕地位に差のある容貌の似たもの二人が無人島に流れつき・・・、となると、ここから起こることは分かりきっているだろう。しかしこの犯罪ユーモアストーリーは、単純なナンセンスでは終わらず、救助はちゃんと来た。だが、犯罪者にはその犯罪動機をも無効にする意外な運命が待ち受けていたのである。よくある話だが、少しヒネリをきかせて、面白く仕上げている。
私的相対評価=☆☆☆

虞美人の眼

珍品とも言える名サファイアが虞美人の眼である。宝石の狂愛家の男爵の持ち物だった。それを手法からして葛城春雄を彷彿させる怪盗が狙っているというのである。年齢が26,27と言う所が気にはなる。それはともかくこの事件は主人公の完璧なる設計の秘密室を見つける事が宝石への道で、その秘密を保っていたのだが、その破られ方の皮肉が面白いのである。それに殺された人物の意外! まさに極端なる役割交代劇だった。さて、宝石狂を解放せしめたその手腕とは!?
私的相対評価=☆☆☆