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女性の謎
寡作である代りに余り駄作を発表しない江戸川君としては、今回の陰獣は彼の従来の作と比較して取り立てて光っていないかもしれない。然し完結に際して初めから読み直して見ると、彼の作品全体として、傑作の方に属しはしないかと思う。 (備考―管理人・アイナット編)≪新字体に変換≫ 江戸川乱歩「陰獣」終了に際しての感想文である。なかなか手厳しく書いておられるが、ある程度は「新青年」での甲賀三郎自身の連続短篇中の話題をかっさらわれた腹いせ、 嫉妬感もあったかもしれない。また初期短篇と中篇「陰獣」といういわば別タイプの作品を一緒くたに 論じ、初期傑作短篇には劣る、という論理は厳しいとは思うが、ある意味では、江戸川乱歩の作品全体の質の高さを認めるものである。 もう一つ、突っ込んでみると、甲賀はどうやらトリックに騙されたようだが、これこそ乱歩の狙っていたものであり、恐らくは乱歩自身の本名を知っている探偵作家仲間や或いは マニア層への挑戦こそ真であったのではないか。真意のわからぬ一般読者を楽しめると同時に、探偵小説の高い次元でも勝負する、ここに自己抹殺トリックの面白さが あると思われる。そう考えると、甲賀の言い訳は、やっぱり言い訳に過ぎないわけで、「陰獣」の素晴らしさを認めてしまっているものと解すことが出来ようではないか。 もう一点、備考らしいことを書いておこう。マイクロフォン(但し四章までの連載第一回の感想)の瀬下耽の文章についてである。まだまだ彼氏の著作権が生きているので、そのまま写すわけにはいかないから、 要点だけ、ピックアップしてみると、瀬下は、《大谷崎のにおいがぷん鼻に》くる、と言いつつ、乱歩の素晴らしさを、所謂《探偵的事実》ではなく、 《あのねばっこい感覚的な行文の妙味》そしてその中の《付随的なもろもろの面白》さが《人目を幻惑》すると言っている。つまり狭義でいう本格的要素の探偵小説よりも、 怪奇幻想味の強い探偵小説の方を好んでいるようだ。実際《探偵趣味が濃厚でなければない程、その作品が好きになれる》とのこと。これはある意味、本格探偵小説を書きたいと思っていた 江戸川乱歩にとってみれば、皮肉的絶讃と取れないこともないが、怪奇味の強い瀬下耽ならでは、夢野久作にも近い好みだから仕方がないものもあろう。 また瀬下は乱歩と甲賀三郎を全く正反対の存在だとも言っており、瀬下から見れば、「陰獣」においても、そのねちっこい幻想味がお気に入りであったに違いない。 |