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甲賀三郎・小説感想リスト昭和十年以降及び不明

死頭蛾の恐怖

昭和日報の新聞記者、獅子内俊次を主人公にした傑作長篇。スリラー物である。発端とも言うべき事件として、他人の土地に近づくなかれの謎の広告掲載を求める昆虫学者。そして現在も蔓延る保険金の恐怖、敵か味方か謎の女、恐るべき病魔、万延する赤死病の事件などであり、獅子内自身が事件の渦中どころか、結果的に被害を拡げてしまうことになってしまうなど屈辱的な役割も演じてしまう。この難事件を獅子内は如何に凱歌を上げることが出来たか!? 少し法律的探偵小説な要素もあり、また赤死病の謎とそれに連関する獅子内の密かなる危難も面白い。ただ事件の中心とも言える豊の流れ先の偶然! が少し残念である。この点を付け刄的でもいいから論理的に説明して欲しかった点と言えよう。また探偵小説的トリックが全く散見されないのも物足りなくはあるのも残念な点。とは言え、獅子内の名セリフが多いし、読ませるプロットがさすがと言う事で楽しめる作品であるのは間違いない。私的相対評価=☆☆☆

月光魔曲

クロフツの「海峡の怪奇」を高笠が退屈を感じつつもラスト近くにはいつの間にか魅入られて読了した所からはじまる。そして高笠の口を借りて、「不快味」は探偵小説の大切な要素でないとし、自らの考えを改めて表明している。少し興味深いのでそのうち引用してみるかも知れない。
と、それはとにかく「月光魔曲」だ。これは素晴らしい秀作である。冤罪らしき事件を扱った法律的探偵小説で、なぜあまり話題にならないのか不思議なくらいである。少し葛山二郎的な錯覚を用いた証拠返しで、月光下の盲点を利用している。アリバイになる証言の食い違い、他の目撃証言など不利な状況を、当時あった陪審裁判でどう逆転させることが出来るだろうか!? 未解決という中途半端に見えてこれこそ法廷の勝負そのものなのである。
私的相対評価=☆☆☆☆

闇とダイヤモンド

新国劇七月上演脚本 探偵劇の探偵戯曲だ。成金の親父は関西弁で、その成金精神ゆえに娘に今の恋人と離れさせて、華族とくっつけようと策略するのだ。そして披露の村の宴会で、自慢のダイヤモンドも公開するが、突如の闇、ダイヤは立ち消えてしまった。この二転三転する謎は!? そして怪盗の真意とは!?
私的相対評価=☆☆

黄鳥の嘆き

単行本収録の際に「二川家殺人事件」と改題された。まだ華族二川家のまだ若い主重明は何を思ったのか日本アルプスの乗鞍岳の雪渓を掘り始めた。その最中の急死なのだ。先代から長く付き合ってきた友人で弁護士の野村は父親の残してきた二川家の秘密資料、更には重明の残してきた遺書を読み、華族家を継ぐ重明の叔父にも殺人に加えての嫌疑も深まっていくが・・・、さて。と言うような展開で、読ませるプロットの妙はさすがの面白さというしかない。ただ残念に思うのは、あまりにもラストがバタバタしすぎていて、あっけななすぎだと感じられたこと、それに伴う設定に無理がありそうな秘密も秘密のまま終わってしまった事である。
私的相対評価=☆☆☆☆

将棋の神秘

完全無欠のアリバイの陰に隠れたる将棋の神秘!実力者だからこそ可能な業だった。なかなか面白い木村清探偵シリーズ。ちなみに将棋と言っても「悪戯」とは全然違う。
【追記】後日気がついたことだが、昭和二年あの作品とほとんど同じメイントリックであったのが(笑)であった。
私的相対評価=☆☆☆

支那服の女

支那服の女は元は日本人の女。主人公の旧友である。その支那服の女と主人公は上海で会ったのである。そしてのっぴきならぬ依頼をされた。主人公は探偵局に勤める女探偵、上海へはある事件のためにも向かう事になっていたのだが、何も掴めず、許可となり、旧友にあって親切に旧友の頼みを受けたのだったが・・・、そこが恐るべき奸計だったのである。
私的相対評価=☆☆

ものいふ牌

残念ながら、私が読んだ本は前半(90頁中16頁)が破れていて読めなかったが、それが前半だけに内容は十分に理解出来た。その表題の示す通りに麻雀中に起こった銃による殺人事件である。しかも麻雀そのものがトリックの一端を担っている点が興味深い。まさにものいう牌だ。その鮮やかなまでの本格トリックに支えられた中篇探偵小説で多くの圧倒的な嫌疑者が登場する中で美事に事件を解決する。筆者の趣味の麻雀を使った点での興味はもちろんなかなかの構成とも言える面白さ。
私的相対評価=☆☆☆☆

四次元の断面

警察、検察の前での自白。それは妻を殺したと思われた男の口から飛び出た心神のこもった言葉。しかし突如言質をひっくり返したのだ。その結果の放免。自白の内容に矛盾があったことにろくな説明がない事やら少々気になる点もあるが、狂気的に変化する心理は面白い所だろうか。妻の浮気を信じた男の悲劇は、ある写真作品から生まれていたのだが、それが二転三転、悲劇は悲劇を呼び、まさに喜劇のごとくなのだ。四次元の断面に潜んでいた真実とは!? 
私的相対評価=☆☆☆

木内家殺人事件

東京帝大卒で若き地主はその温厚な性質からもあって村人たちにも人気があったが、別荘で療養中以後、謎の行方不明を遂げてしまった。その木内家、他に弟、妹、従弟といるのだが、ここ最近米国で多大な財をなした叔父が死亡した事による遺産問題も、その木内家当主の失踪事件に絡んでいるように見えた。そして意外なところから死体が二つ発見されるに及ぶのである。最も疑わしきは自供の内容をコロコロ変えてしまうのだが……。さて、まさに木内家殺人事件の表題に相応しいこの事件の恐るべき陰謀とは如何なるものであったか! 些か唐突の感もあるが写真のトリックや陪審制などのエッセンスなども詰まっているし、意表外に展開する真相への筋道も面白いと言える本篇なのである。
私的相対評価=☆☆☆☆

イリナの幻影

民国政府顧問の親日家という西洋人が密室の中で変死を遂げた。しかもなぜか手元の写真には日本の要塞写真が・・・。これは殺人か! 病死か!? とにかく娘のイリナである。そのイリナも上海で突如日本人医学博士に殺されてしまう。その日本人から届いたのがイリナの幻影に取り憑かれた男の告白書、あらゆる意味で恐るべき錯誤が示されたあったのだ何という悲しき幻影だったか・・・。
私的相対評価=☆☆

哲学者と驢馬

美術商会主は人や生物に自由意志は無いというブリダンのロバの話を好んでする哲学者気取りな男だったが、この男と助手とは実は悪徳者だった。金持ちから絵などを盗み巧みに取引をして少しずつ無理なき範囲で確実に儲けていくのである。しかしある時盗みに入った助手がブリダンのロバを実践してしまったのだ。それは幸か不幸か、右か左か・・・、甲乙付けがたい二つから選べない自由意志の無さ・・・・・・。
私的相対評価=☆☆☆

死化粧する女

短めの長篇である。東京市内でしか販路を持たぬ小新聞・東都新聞の記者、幡田は主幹や幹部連の留守につき留守番を言いつけられていた。そこに飛び込んできた謎の投書! それによると、事件があるというのだ。せっかくのチャンスを逃すものか、と、幡田はその指定の場所に行くが、それが死化粧する女事件に直面する事になろうとは!? 死化粧する女はピストルで殺害されていた。が、その顔は死化粧されていたのだ。しかも周りには獣物の血液がまき散らされて入るという奇怪な状況。これは一体何を語るというのか。更に疑わしき人物として東都新聞主幹の息子の名前が急浮上。さらに死化粧する女以外にも、女の姿がチラホラするなど、重要なプロットを形作っていくのである。果たしてこの意外な犯人を隠してしまう本格的謎の正体は如何に!?
私的相対評価=☆☆☆☆

N2号館の殺人

変幻複雑なプロット、隠し方のトリック、そしてお手ものの理化学トリックで構成した本格物中篇。犯人への道の転回も美事である。些か事件に関係ない細部でご都合主義的一致も見られるが、単なるあまり関係ない部分の理由付けに過ぎぬ。私立探偵・佐倉竜平活躍。
私的相対評価=☆☆☆☆

虞美人の涙

鳳明という34、5歳の怪盗が活躍する長篇探偵小説。さすがに長篇らしくトリックよりもプロットを、という展開で、謎を解き明かしていく。虞美人の涙ことダイヤモンド(夜光珠)を巡る恐るべき怪事件。日東新聞編輯長が事件がないなら、事件を起こしそうな人を捜せ!といったことから記者たちは巻き込まれていくが・・・・・・。ラストの暗号は苦笑のみ。なお、短い長篇(長い中篇)である。
私的相対評価=☆☆☆

操る魔手

国家問題に繋がる秘密書類が盗まれた外交官の主人公はそれが出来る疑うべく相手として、妻を含む家人と妻の友人だけと知り愕然としてしまう。更に密告は主人公の運命共同体とも言える独人にも及び・・・・・・。操る魔手、その意味も絶妙ながら、操られた魔手の考えた隠し方も奇抜。さて、この国家に大損益を与えかねない大事件のユーモラスな結末とは・・・!?
私的相対評価=☆☆☆

食人鬼の函

ひとくいおにのはこ、と読む。博士は警官に時間を尋ねると、思った時間と大きく食い違っている。しかも博士は葉巻の論理から間違いないと言い張る、この不思議。その夜博士はある家に呼ばれラジオを聴いたのだ。それが恐るべき殺人事件の序曲だったとは! 食人鬼の函は、殺人の引き金を引いたのである。ああっ、何たる悪漢、奇計すらも物ともしないと言うのか!? しかし悲劇だったのである。
私的相対評価=☆☆

霧夫人

怪奇犯罪綺譚である。スキーもやるような雪山、その山上ホテルに、霧の激しい中にあって、目指していた主人公の探偵小説家は、その途次、ある母親とその少年に出会う。目的地は同じようであった。そしてその目的地こそ殺人事件のあったホテルなのである。既に別の男が逮捕され、最近になって漸く無罪を認められたと言う事件。犯人は余所にいるのだが、それが霧夫人の今回の動機にも繋がっていようとは!? 怪奇な綺譚の中に魂の休まりもある本篇。主人公の探偵小説家と霧夫人の世を忍ぶ共通項とは何であったろうか。味を全体出し切れているとは言い難いが、それなりに奇妙な情味を楽しめる作品ではあるだろう。
私的相対評価=☆☆☆

謎の女

ゾッとする感覚が何か面白い謎の女の恐怖。感づいたときの主人公の心持ちは如何なるものか。主人公は偶然前に一度会ったという男に出会い、彼が結婚し美しい妻を得たから、招待したいという誘いに困じかねて家に行くことになった。それが悲劇の始まりであったのだ。妻はいつまで経っても帰ってこず、直に電話で連絡を入れるも泊まりになると言う。しかも妻の肖像画に何かしらの見覚えを感じた主人公も興味を感じて、思わず待ちぼうけ、泊まることになった。さて、謎の女の謎たる所以はどこにあったというのだろうか!?
私的相対評価=☆☆☆

蛇屋敷の殺人

これは物凄い傑作中篇だ。手塚龍太弁護士シリーズの恐らくラストと思われるが、その本格度は圧倒的と言っても良いはずだ。二重三重の用意周到な犯罪トリック、更に隠し方のトリックも本格味と怪奇味のW、怪奇味についてはまさに蛇屋敷に相応しい。原田警部と手塚龍太の二つの推理が双方ともに論理的に美事。さて、蛇屋敷の主人の奥さんの死体と銃声の謎は如何に!?
私的相対評価=☆☆☆☆☆

月魔将軍

中秋の名月の頃、主人公は休みを取って、山に登る。しかし目的地を指し示す表示がどういうわけか虚偽であったため、山の中の一軒家へ辿り着く事になる。そこには既にある姉弟も同様の理由で紛れ込んでいた。そこで起こった綺譚である。まるでお伽話のような展開であるが、土蔵や蝋人形が揃っていたりする所は乱歩的ながら怪奇な雰囲気には必要不可欠だ。そして満月。この狂気を生む源が全ての元兇とは、まさに恐るべき月魔将軍。主人公の夜中に網膜に写ったものは、有り得ない光景。そして翌朝の事件! 何だか変な味のする作品だが、怪奇綺譚としては悪くはない。が、月の魔力の効果は繋がりとして弱いのは否めないだろう。
私的相対評価=☆☆☆

兇賊の涙

幻の五郎こと兇漢大曾根五郎は、どんな場所へも自由自在に入り込み目的を達する恐るべき怪盗。警官隊は毎度やられるばかりである。そこで意表を衝く門灯明滅策戦を展開させるも、幻もさる者だ。その後大阪で悪の限りを尽くす幻だったが、よもやそれが涙に繋がろうとは! いかなる兇賊も自己の運命の導きにに苦しめられてる時に、小童の素直な説法の前には涙したのである。
しかし大曾根五郎って、乱歩・・・、しかも《キング》では『大暗室』が連載後半に突入中だったのに、この名前の一致は甲賀三郎の稚気なのだろうか!?
私的相対評価=☆☆

羅馬の酒器

半沢家で起こった二重殺人事件の謎は複雑に絡み合い、疑問が疑問を呼ぶものだった。羅馬の酒器のトリックの謎とは如何なるものだったか!?
私的相対評価=☆☆☆☆

血の指紋

木村清シリーズ。神戸のホテルで開かれた実業家連合のパーティに世界各国の男女は群れていたが、その主役格こそアメリカの製鉄王だった。所がその製鉄王が部屋から戻ってこないと不審に思った娘と日本人青年は部屋へ行くが錠前は壊されていて容易に入れず、何とか中に入るもそこで見たのは荒らされた状況と血の指紋だったのである。しかし確かに意外な木村の推理結果で、香や窓を元にした推理も悦に入ったものであるが、何やら血の指紋については取って付けたような感じだ。しかしさすがは神戸、当時の病んだ支那人町が出て来るのだ。
私的相対評価=☆☆☆

青服の男

むろん難もあるが、なかなかの佳作であり、犯罪の新しい奇を狙った創意ある作品と言えよう。田舎の別荘で狭心症の死者が発見された。それが新しい若い旦那なのである。と思われたが、通知の電報に対して本人から返信があったから奇々怪々である。死者に思われた男、曰くには、それは相貌のよく似た従弟の死体であると言うのだ。そして死者の貧乏、生者の金持ちなど二人の当たり前の財産状況、更に逆ならば相続されていたくらいだ。またその目撃者のいる中、死者生者の青服と鳶色服の洋服という相違などから、単なる病死で事件無しと思われたが、さて!? ユニークな犯罪動機等から意表な奇抜性をもたらしたのが本作なのだ私的相対評価=☆☆☆

法を越えるもの

千万円の財産、今にも死ぬかも知れないという病の老人が毒を盛られて死んだ。唯一の相続者の甥は不良で、しかも老人は遺言状を何度も作り替えていたのだ。つまりは駄目甥にやるかやらぬか! 法は執行されたがその裏では社会善という動機の元で策動している者がいたのだ・・・!! 非個人的動機で、まさに法を超越したという点で非常に興味深い一篇と言えるだろう。
私的相対評価=☆☆☆☆

旅券

パスポートと呼ぶ。長野の高原と琵琶湖近くの滋賀県を舞台にしたスパイ小説。珍しく英国人スパイ二人が主人公をしている。旅券のチェックが日本では非常に厳しくなっていた。アメリカ人観光客はそれが非常に不満であったが、今回の事件ではそれが幸を奏したのである。エラーは単純な所から出て来るというお話。今回のようなケースでは嗜好は前面に出すべからずだ・・・、とは言え、思わず出てしまったのだろう、哀れ。
私的相対評価=☆☆☆

マネキン奇譚

タイトル示すとおり、ユーモア物だが、とても面白い。好きなタイプな作品とも言えよう。そもそも読む前からかなり気になっていたタイトルである。主人公は頭も駄目だし肉体も駄目、やる気もなくてどうしようもない男であった。それでも生活のためには金が要ると言うことで、二人に相談に行くも、満州に行け、だとか、特許新案を取得せよ、等の無理難題である。個人的に大学芋の話は参考にはなったが、経済弁当は駄目すぎであろう。しかし天職とでも言うのか、そんな彼にもいい仕事が。それがマネキン宣伝法なのであったのだ。こんなユーモア仕事で、しかも彼はちょっとした好奇心で、人生観を大きく変えることにも成功。まさにマネキン様々であったのだ。
私的相対評価=☆☆☆☆

一本のマッチ

木村清シリーズ。外交官宅で起こった不可解な三重窃盗事件。それは第一の事件では指環が、第二の事件でも指環、しかし他に高価な物がある中で別の指環が、そして第三の事件では暗号解読鍵が盗まれるという不可解さである。しかもいずれの場合も残されたるは一本の使用済みマッチとういうのだ。事件の展開で興味を持っていく所は面白いと言える。内部犯としか考えられないこの事件の犯人の目的とは如何なるものだったか。どうも真相が予想の範囲であったことやラストが気に入らないが、木村の配慮ある探偵ぶりには感激であろう。
私的相対評価=☆☆☆

要視察人

ユーモア探偵小説。タイトルだけ見れば時代が時代なだけに軍事小説の臭いがするが、この作品はスパイはスパイも零細株式会社の社長による社員の視察活動を指すのである。 信用ならぬ社員に対して、視察活動を欠かさぬ社長の姿はユーモラスであるが、社員間で相互に監視させるのは、帝国国家のやり方にオーバーラップし、決してユーモアだけで済む問題ではない。しかもその相互スパイ密告制度に対して、まこと細かに異を唱え、各人の自覚をもっと尊重すべきだと言わしめた甲賀には、今読めばこそ称賛の意を覚えてしまうではないか。 話は200円の泥棒事件に発展し、社長の要視察人の効で、誤解の事なきを得たのだが、上手に効用をユーモラスに示しながらも、国家政策の効果に意を唱えた甲賀に拍手を送らねばなるまい。
私的相対評価=☆☆☆

上海奇聞 カシノの昂奮

犯罪絡む探偵小説では無いながらも、ハラハラドキドキを味わえる作品だ。それにトランプトリックも出て来るのも嬉しい。上海のカジノを舞台に、ある日本人はイカサマ師相手にドンドン金を削られていた。独人が忠告するも、その日本人は自暴自棄にわざと負けているのだという。思い人が死んで終ったという理由で今まで必死に貯めた金に意味が無くなってしまったからだった。しかしその実、生きていた恋人、日本人は一転して負けられなくなってしまったが・・・。もう一人の日本人が名探偵さながらにイカサマを見破り、ハッピーエンドをもたらしたのは美事な手腕と言えるだろう。
私的相対評価=☆☆

海の掟

ようやくの思いで船長になり相思相愛の人と結婚した主人公。しかし船長の運命は恐るべき葛藤に見舞われてしまう。出産の際の妻がキトク、この電報と、近海の旅客船からのSOS信号、この恐るべき葛藤。ただでさえ暴風雨で難儀している中、船長は選んだ道によって幸運を掴んだのである。しかし難を言えば、幸運すぎるこの結末というわけにはいかない実際の世の無常的結末を展開した方が良かったかも知れない。
私的相対評価=☆☆

海獅子丸の真珠

海洋小説。日本人のジローは、英船・海獅子丸の唯一の生き残り。しかしユダヤ系のセラーにまんまと騙されてしまい、絶大な価値のある海獅子丸の真珠の在処を教えてしまったのである。さて、セラーは日本人と準現地人を騙くらかして野望の海獅子丸の真珠を得ることができただろうか!? フィリピン・マニラや南洋の島々を舞台にした南洋ロマン。物語として、面白いことは面白くはあるんだが、やはりそれ以上ではない。
私的相対評価=☆☆

海の仁義

タイトルの通り海の仁義小説であり、全く探偵小説味は感じられない。少しは期待するだけに残念である。単なる仁義小説で論理も工夫もあったもんではない。話は、水夫長は新しい船長を忌み嫌っていた。というのも彼は実地出の船長が好きであり、学校出でしかも丁寧語を話す船長が嫌で嫌で仕方がなかったからである。そんな最中、海の困難が到来し、ようやく難船の危難は脱したが、目の前には別の船が沈みかけているという状況。船長は助けろとの命令を出すが、水夫長は助ける側のリスクが余りに大きすぎるから無理だと拒否するも・・・という展開。そこで海の仁義が登場し、そして凱歌を挙げるという内容で、全く凡作であるのは言わずもがなのとおりである。
私的相対評価=☆

多気博士

精妙なバラをかたどった石。しかもダイヤよりも固いというのだ。それは多気博士の残された発明だと言う。しかしその持ち主だった美男俳優は失踪中・・・。これは何を意味するのか! そして絵描きの弟子と女との関わり・・・、多気博士の恐るべき実験。まさにダイヤより固い人形の完成だ。これは真実か夢かの怪奇小説。
私的相対評価=☆☆☆

日本人の死

外地小説。インドネシアの回教徒の村落を舞台に展開。そこでみつかった油田、そこに英国の会社も確保目指してやって来たのだ。主人公は、愚鈍な前任者に苦労し、日本人に私怨で襲われつつも、強力な信念を持って目的達成目指す。狂と化した回教徒もアラーの奇蹟で沈み、日本人は元の親友として、親友を救うために死んだ。しかし結果的に国家の利益になり主人公も信念を達成出来たのだ。このような外地小説でも現地の女性が強力なキー助けとなるところがいかにも甲賀三郎らしさ維持であり、全く探偵小説でなくても、甲賀らしい面白味があるのである。
私的相対評価=☆☆

夕陽輝く頃

主人公はアメリカ資本の前に屈辱を味あわざるを得なかった。カンボジア在の主人公、そこでやけくそになったわけでもあるまいが奥地の遺跡群を目指すことになるが・・・、大東亜の本当は目指していた所の理想郷の縮図を作り出す本篇は感動的な作品と言えないこともない。一時は悪漢と対面しつつも、上手い具合に夕陽は輝き、教訓を習いつつも、主人公の夢は叶おうとしているのである。
私的相対評価=☆☆☆

要塞地図

小浜近くを走る列車の中で突如拾われたロシア文字の書き入れの入った舞鶴の要塞地図。果たしてこれはスパイの存在を意味するものなのか!? 終点の敦賀で取り調べる事にその車両に居合わせた人達の間で何とか決定したが、そのスパイの正体とは!? さすがの甲賀であり、スパイ小説の皮を被った謎解き犯人捜しの探偵小説を仕立て上げている。もっとも、推理根拠には決定性に欠ける薄弱性はあるが。蛇足までに私の本名字の登場人物が登場していたのが嬉しい限りだ。小説で見たのは、砲術で有名な実在の人物を除くと、おそらく初めてである。
私的相対評価=☆☆☆

黒衣の怪人

暗黒紳士・武井勇夫シリーズ。今回も人助けである。思わぬミスから重要書類を渡してしまい、それが恐喝者へだったから大変である。最後の頼みと暗黒紳士に依頼するも、その武井もタイムリミットがある事もあり、大苦戦を強いられてしまうのだ。まず隠し場所が分からないと言う問題。この危機を乗り越えるためにいかなる機転を効かせただろうか!? 天は味方せり、これは春山探偵のセリフか、それとも武井暗黒紳士のセリフか。黒衣の怪人はどちらに微笑みかけただろうか!? 甲賀の怪盗物にしては珍しいというか、何というか、超人怪盗という程ではないのがこのシリーズの魅力であろうか。
私的相対評価=☆☆☆

蟇屋敷の殺人

しっかりとした構成の本格で、またかと思わせる展開を、逆手に取ったような真相、確かに今考えれば大した謎でもないが、甲賀だからこそその効果は生きてくると言えるかも知れない。まさに構成を生かしたトリックと言えるだろう。プロットの秀逸さも流石であり、物語の壮大さも強力。東京の蟇屋敷を中心にしているのは当然だが、横浜に鎌倉、埼玉の奥、更には大阪までも舞台にしているのだ。主人公の探偵小説家に刑事とが真相に迫っていく手法は、これだけでもクロフツを読んでいるような感覚も与えうる。更に人間移動の興味と来ては! 惜しむらくはこの点をクローズアップするなりしてもう少し効果覿面に生かして貰いたかった所だ。考えようでは凄い作品にも成り得たのだ。問題点もむろんある。最後のドタバタは相変わらずいけないし、何よりもいくら邪魔とはいえ、あの扱いは少し可哀想である。それとも恐るべき真相なのだろうか?
はともかく、本事件の概略を軽くすると、発端から恐るべき事件である。有名な資産家の自動車の中から死体が現れ、しかもそれが首と胴体を切り離されているのである。その割には五体は揃った死体であり、奇々怪々。更にはその死体の主と思われた蟇屋敷主人であるが、ピンピンと生きているのである。顔もそっくりであるというのに。果たしてこれは奇々怪々を通り越してしまっている。更には当の蟇屋敷主人はアリバイを言わないのだ。蟇屋敷、そこには探偵小説家の主人公も夫人経由で招かれた。そこに見出したのが、かつての教え子であり、恋い焦がれた女。蟇屋敷の秘書である。生きているような生々しさも持つ蟇蛙の置物、更には蟇蛙が放たれているという蟇屋敷。怪奇なる幽霊も現れるという蟇屋敷。殺人事件の舞台としては取って付けであったと言えたのが、更なる悲劇を生む事になるのだ。次から次へと不思議なる事件! 各人が演じる謎の行動! 刑事の探偵ぶり! そして恐るべき不覚! 意外さという面では弱いし、ご都合主義もいくつか見られるものの、その謎を求めて読ませる面白さは甲賀のプロットの勝利と言えるだろう。
私的相対評価=☆☆☆☆☆

闖入者

イギリス・ロンドンのホテルを舞台にしているという面だけでも興味深いと言える。さすがは経験者と言える洗練された描写。旅の時に宿を確保していないと、そして確保出来ないと不安になるが、それを親切な英国人が助けてくれたと言う話題から、他の人がこの英国人が登場した面白い話を語り出したのだ。闖入者、それはホテルの部屋への闖入者。間違えましたという言葉を残して去ったのだが、その後、盗難事件が発生し、語り手の外套から見も知らぬその宝石が出てきたので、言葉の上手くない語り手は苦しい立場に追いやられてしまうと言う展開。まぁ、抜き差しならぬ大騒ぎにもならず、コント的な内容ではあるが、実話にもなりそうな一篇である。
私的相対評価=☆☆☆

開いていた窓

探偵作家の高笠武郎登場の作品。幾つかの材料を元に犯人を最特定する。本格探偵小説。人間心理に面白さがある。
私的相対評価=☆☆☆☆

二つの帽子

警察官・谷屋三千雄シリーズ。と言っても昔日の事件の語り手であるだけで、彼にとっては失敗談であった。婆さんの下宿で二階屋に住んでいた男が死んでいた。それがまた奇々怪々な状況なのであるから大騒ぎだ。窓が開いていただけで他は密室状態であったのである。握られていたピストル、しかし火を噴いていないのだ。にもかかわらずの死の闇。二階屋に平気で登るは、世間を騒がしていた猫のように身軽な怪盗・山猫強盗のみ。さて、これは山猫強盗の仕業だと言うのだろうか!? 二つのサイズの違う帽子、鳥打帽と中折帽を巡って、中岡警視の名推理が冴え渡る。どれも力に欠ける感はあるが、謎と推理と意外性と勢揃い、それなりの並の面白さと言えるだろうか。
私的相対評価=☆☆☆

死後の復讐

死後の復讐! それは単なる強迫観念の為せる業だっただろうか? 否、恐るべき奸計の予防線である。チブス菌による病毒殺、こんなナンセンスは有り得るのか!? まさに生物化学兵器の雛形ではないか。もし事実とすれば恐るべき犯罪者と言わねばならぬ。しかし、死者の妄念は更に上を行っていたのだ。二重三重の心理を衝く罠! 悪魔的復讐劇である。また隠し方のトリックとしても意外で少し面白いものを用いている。なお、白川友次なるいくつもの名前を持つという名探偵が登場する。
私的相対評価=☆☆☆

屍体の恐怖

主人公は死体恐怖症である。それも並々ならぬもので、葬式に行く事はもちろん。墓の近くにも寄れぬくらいだ。それがこの奇々怪々な事件を経て克服するに至ったのだった。それは恐るべき復讐鬼の話で、西島家の悲劇とも言うべき物で、完全な変装術などと言った疑惑が謎で呼んだ物であったのであった。しかし現実はあくまで現実だった。のだが・・・・・・。それと興味深い点として、単なる怪奇小説として終わらせずに、探偵小説には探偵小説的解決が必要であるとわざわざ断り書きしている点も面白い。
私的相対評価=☆☆☆

音と幻想

妖怪博士は、心霊学学者、怪しいまでの妖怪じみた容貌を持つ胡散臭い学者である。その妖怪博士の研究と推理が冴え渡るのが本篇。博物館で起こった恐るべき殺人事件、と言うのも密室殺人なのである。妖怪博士が心霊学を駆使するには、被害者の示す残像には白い服の女の像が、果たして幽霊殺人事件だというのか。しかも足跡のある幽霊、まさに怪奇である。音と幻想、巨大な音が示す秘密と幻想が結びつくとき、時を越えた音楽が夜中に響き渡り、夜警の男は狂ったようにのたうち回るのである。
私的相対評価=☆☆☆

頭の問題

あまりにも馬鹿馬鹿しくて、それでいて何となく痛快な小説である。藤澤君は大富豪の令嬢と結婚するに当たり。大富豪に強烈な問題を出題された。パン切りやバターも装備した完全なる自動トースターを百台売らねばならないのだ。値段も値段なのでなかなか売れない。そこで頭の問題。上手いトリックで結婚することが出来たのである。もちろんこれはユーモア物である。いくら何でも犯罪過ぎるし非常識千万。しかしそれがまたナンセンス的に面白いのである。デパート王の頭はどうなってるのか、と笑ってしまう。
私的相対評価=☆☆

伯父の遺産

これもユーモア物でそれなりの面白さだ。従兄弟二人が金持ちの伯父の遺産の継承者とされる遺言が残された。三分の二が主人公、三分の一がその従弟である。しかし船乗りの主人公は無類の酒好きであるが、その点が伯父の遺言状によると、酒を飲むと、相続無効にするとあるのだ。全財産欲しさの従弟は主人公の船にまで乗り込んで監視までするが・・・。結局正直者が勝利したのである。全然探偵小説ではないが、悪くはないショート・ストーリー。
私的相対評価=☆☆☆
   

ビルマの九官鳥

少年読み物で、時は日と米英開戦直前。ビルマで消息を絶った探検家の父親を捜す手懸かりを得た誠一少年は、その手懸かりをビルマの九官鳥から得た春海に付いて、英領ビルマへ乗り込み、その九官鳥が縁となったビルマ人タライと共に奥地へ向かった。その冒険秘境小説的興味から科学小説的興味も加わるのが本篇である。探偵小説的興味稀薄で極まりないのは仕方のない事なのだろうが、甚だ物足りない点ではある。
私的相対評価=☆☆☆

謎の少年

英国籍の客船で大人二人に脅迫されている少年。それを助けようとした保田青年だったが、その東シナ海で船が転覆してしまう。運良く助かった少年と保田、しかし少年は記憶を失っており、まさに謎の少年と相成ってしまった。更に少年の背中にある地図のような刺青。この謎とは如何なるものか!? そして謎と言えば東シナ海で磁石が微妙に狂うという問題!? その後少年は圧巻に攫われてしまうなどの危難に迎えるが・・・、果たして運命は!?
私的相対評価=☆☆