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甲賀三郎・小説感想リスト 大正十二年から同十五年

真珠塔の秘密

甲賀三郎の記念すべき処女作であり、その点での興味も非常に駆り立てられる。橋本敏の探偵譚。真珠塔がいつの間にか前に注文されて作っておいた模造品と入れ違っているというのだ。その真珠塔の重さや状況を考えると奇々怪々である。真珠の模造品の示す痕跡の処理など、論理的で意外な解決が面白く、この時代においては、破格とも言えるほどの美事な構成で展開される本格探偵小説だ。また橋本敏をホームズ役に、岡田をワトスン役の執筆者に当てはめている有名作家作品というのは、本邦初ではなかろうか、と思われる。
私的相対評価=☆☆☆

カナリヤの秘密

橋本敏と岡田の元に令嬢が訪れる。父の醗酵化学の博士が毒ガス中毒で死亡したというのである。しかもその前には悪徳弁護士が同一の部屋で死亡しているという二つの類似した毒瓦斯(ガス)中毒事件! なかなか読める作と言えよう。父博士はカナリヤという謎の最期の言葉を残したが、そこにも注目した名探偵の橋本敏、事件の謎を解明するのである。容疑者としては件の令嬢、弁護士の息子、深夜に部屋を訪ね暖房に火をつけた下男などがあがったが、その恐るべき真相はまさに、あのカナリヤさえいれば、という悲劇だったのである。まぁ、難点をいえば、架空と思われる化学的設定が基にあるという点であろうか。
甲賀三郎が新青年に発表した記念すべき第一作目であり、理化学的トリックを発揮した作品である。
私的相対評価=☆☆☆

琥珀のパイプ

三つの事件が美事なまでに複雑怪奇に混ざり合ってるのを松本名探偵が解き明かす。この本格ミステリも甲賀三郎の化学知識を生かしつつ、暗号も登場し、全く最後の驚くべき真相、この演出は心憎いばかりではないか、あまりにネタばれになるから伏せておくが、例の探偵小説では有名な目くらましトリックに出くわすとは思いもよらなかった次第である。主人公が琥珀のパイプを見るたびに、冒頭文の通りにゾッとせざるをえないのもよくわかるというものだ。
今もって、甲賀三郎の代表的作品の第一級に挙げられるとともに、理化学的トリックも冴え渡る甲賀三郎の出世作。
私的相対評価=☆☆☆☆☆

母の秘密

今までの甲賀三郎とは怪しげな雰囲気漂う作風で書かれた本格。タイトルでもある母の秘密に関することである恐ろしい悪巧みがなされ・・・・・・、というお話だ。医者の書生として木村清が初登場する点でも見逃せない。古くささは思いっきり感じる点は多々あるのが現在に於ける欠点であろうか。さて、小間使いの気絶事件に端を発したこの事件、幻の女は潜在意識の見せる女だというのか、秘密の果てにある感激とは!?
私的相対評価=☆☆

大下君の推理

探偵が大下君を向かいの家の窃盗罪の疑いで調査しに来た。それに対し大下君は容易に反証のための推理を披露していくのだが・・・・・・、ラストの錯誤も見物であろう。
私的相対評価=☆☆☆

大下君の武勇伝

つまらぬユーモア物に過ぎない。大下君が謡ってると、突然因縁をつけられ、武勇伝を演じた。そしてその後、暫くすると時計の調子が悪くなった謎というものだ。しかし根本からして因縁をつけた側の最大動機がナンセンスであるし、時計についてもあまりに偶然に頼りすぎている。そもそも警官だって、ど田舎であるまいし、通りがかりの人だって時計ぐらい持っているだろう。やっぱり根本がナンセンスだ。まさかそこまでユーモアを狙っているわけではあるまい・・・。
私的相対評価=☆

誘惑

かなり強引な展開であるが、意外な所が中盤と終盤に二度もあり、「誘惑」という表題の付け方も絶妙であると思われた。
私的相対評価=☆☆

空家の怪

元検事に上手い具合に家を安く買い取られてしまった。老人の法の無知が無さしめた悲劇である。しかしその騙されて取られた家を取り返したというのに、主人公も協力。殺人事件の現場、幽霊の話など子供騙しにも見える評判を立ててみるが、その効果は!? 弁護士の密かな活躍が少し面白く、主人公と同じく私も少なからずドキリとしたものである。が、これは現在では犯罪だろうな、とは思う。
私的相対評価=☆☆

ニッケルの文鎮

傑作本格短篇であった。初期短篇の代表作。小間使い(女中?)による一人称形式も軽妙で効果的であるし、判事?の錯誤も見物、まさにニッケルの文鎮、甲賀三郎得意の専売特許、理化学的トリックを使った殺人事件のカラクリも面白く、そしてなによりラストのこの事件全体の真相、ここまで来ると素晴らしいとしか言えないであろう。怪盗対名探偵、無電小僧と木村清の共演という点でも本篇の非常に興味深いポイントでもある。研究を巡る大展開に昇華する本作の驚きの真相とは!?
私的相対評価=☆☆☆☆☆

愛の為めに

微笑ましくも窮地的 に切迫した謎が主題であり、読後感にも何やら感動のようなものを感じた。人間も上手く描かれ、探偵小説が文学にある程度を近づけることを実証したような作品と言えるだろう。
私的相対評価=☆☆☆☆

或る夜の出来事

なんてことはない犯罪を打ち明けるタイプの作品だが、真相の意外さは少なからずはあっただろうか!
私的相対評価=☆

悪戯

昔からの友人とはいいながらの好敵手、いや単なる競争相手として捉えていた関係。そのような病的な友人関係が互角の実力の将棋という勝負事にも波及したとき、友人との競争心理が最大悲劇をも生んでしまったのは必然だったのかも知れない。その鬱積から生じたちょっとした結果としての殺人。だが、全く他意のない友人の悪戯によって、疑心暗鬼の主人公の秘密は暴かれてしまうのだ。甲賀三郎の見せつけるゾクゾクする怪異的文章の巧さが前面に出て効果を発揮した短篇。怪奇犯罪小説の秀作ここにありである。
私的相対評価=☆☆☆☆☆

記憶術

酷い駄作である。何が面白いのか理解が苦しむくらいだ。数字の記憶術にのみ長けた男が考え出した拙い作戦だが、それはあっけなく破れたのである。まぁ、ラストがユーモアなのだろうが、全然ハズしているとしか言えない。
私的相対評価=☆

古名刺奇譚

探偵小説として事件は無事解決を見たが、甲賀三郎としてはあんまりにも…とも言うべき珍しいラストである。大阪方面へ列車旅に出た男は新妻の無邪気さと元々の友人でその妻と妙に最近仲良くなった男に嫌気がさしたからだった。その車中で出会った女。そこで冒険心を少し妄想してしまった事が始まりだった。よもや女の前に落とした古名刺があれほどの効果を見せつけるとは、そしてそこからの悲喜劇。女の動機はまさにもっとも至極であるが、その古名刺から端を発し、謎に過去現在の事件が入り組むこの事件だが、いかなる展開を見せたか!? 何とない憂愁も感じさせる作品である。
私的相対評価=☆☆☆

従弟の死

サブタイトルは村松博士の手記という、なかなか複雑なプロットで構成された本格探偵短篇である。また甲賀らしく科学的な物も利用されている秀作と言えるであろう。木村清名探偵シリーズ。
私的相対評価=☆☆☆

野森君の失敗

純然たるユーモア小説である。短すぎるので評価は困難だが、それなりに面白くはある。ポスター貼りをしていた野森君の恥ずべき失敗談で、確かにこれは大失敗であり、さぞ白い目で見られたことだろう。この失敗に比べれば、米屋の親爺と警部を間違えたことなぞ、ものの数ではない。
私的相対評価=☆

惣太の経験

気早の惣太シリーズの第一作。初出のタイトルは「気早の惣太の経験」。この惣太、あくまで盗人とはいえ、生活に逼迫したときにしか仕事をしないのにくわえて、憎めない間抜けなユーモア溢れるキャラクター。なお、気早というのは慌て者ということからである。この話でもちょっと間抜けな目に遭いながらも、爽快な活躍かつ愉快なラストに仕上がっている。
惣太は洋館に潜り込みたくなったのだが、そのためにはなぜか洋服で正装するというユーモアぶり。そこでは男女に見つかりそうになったから、長椅子の下に隠れるも、不愉快なそこでもユニークな活躍を見せつけ、更に男の夫という女からの陳情から逃れるためもあるが、律儀に活躍を見せつけたのだった。むろん惣太だけに悪意には弱い・・・、しかし最後に笑うのは惣太なのが快いではないか。
私的相対評価=☆☆☆

勝者敗者

兄嫁に恋してしまった弟はこの苦しみから逃れるために兄嫁に毒を盛るが・・・・・・・、はたして兄弟どちらが幸福で、勝者、敗者であったのか、死に行く者は幸福のまま勝利を意識していたに違いないというのに。なかなか面白い怪奇心理小説である。変格。
私的相対評価=☆☆☆

五階の窓(連作の第4回)

この連作小説については、「乱歩の世界」の小説紹介があるので、こちらを参照してもらいたい。
さて、甲賀三郎分についてであるが、第四回として確実に上手く繋げている。
私的相対評価=☆☆(甲賀三郎分)

青春への嫉妬

これは或る國で陪審法が改正せられて殺人罪まで及ぶ事になった。その最初の奇怪な事件の記録である。遺憾なことは前後不首尾で、云わば断片に過ぎないのだ―≠ニいう甲賀三郎の前書きの通り、結末は不明確であったが、とりあえず犯罪実話小説とのことだ。内容も当事者間の供述の食い違いの不思議など面白くもある。
私的相対評価=☆☆

急行十三時間

名探偵の木村清シリーズ。心理的本格探偵小説とも言うもので、ハラハラドキドキなかなか面白い。悪漢に狙われた大金と、けちんぼの大金の運命は如何なるものか!?
私的相対評価=☆☆☆

嵐と砂金の因果率

砂金を巡る嫌らしい闘争の果ては、悲劇のみ。怪異で異様な雰囲気をバックに暴風雨が吹き荒れる。
私的相対評価=☆☆☆

惣太の喧嘩

禿の勘兵衛は惣太の嫌う夜盗たちの親分格。妻子もありそれだけに盗みも派手に行うらしい。惣太と違って豪快犯罪なのだ。喧嘩嫌いの惣太もいよいよ対決姿勢を鮮明にするも、意外なところから策略に落ちてしまうのである。そして女も惣太にとっては鬼門。禿の勘兵衛の女房に煽られたばかりに、間抜けな事に、ついに唯一最大の自慢の種も風前の灯火に! どうする惣太、自身の生き方を否定するようなマネをするというのか! 惣太の性格がまたもや自身を精神的に救済した話と言えるだろう。
私的相対評価=☆☆

恋を拾った話

これもやり方が葛城春雄を彷彿させる感がある。いわゆるペテン的要素の強い小説なのだが、少し効果的な意外性があり、人情味もあり、ペテン物の割には期待を裏切らないのである。しかしやはり物足りないのは確かであろう。
私的相対評価=☆☆☆

恐しき凝視

そんなに悪くはないと思うが、主人公の時計が偶然に止まっていたという点が承伏しかねるし、いくら何でも検視に間がなのだから推定時刻がそんなに狂うわけはないと思う。恐ろしき凝視は動機であり、植物の生長スピードや兇器にヒントがあるのは面白いと思う。
私的相対評価=☆☆

惣太の幸運

気早の惣太は夜盗のくせに不正を嫌う。これは一見矛盾しているようであるが、惣太の中では夜盗は生活だけのための職業であり、全く次元の違う話と言う事なのだ。この惣太の性格が幸運を招いたのが本事件。夜店で善意を、さくらという悪意の下に褒められるなど、あまり快くない事もあったが、その後捕まらない事を羨んだ夜盗仲間から巧みに警備の厳しい家に入るように誘導されてしまう。そこは惣太あっさりその気になり、挑むが、その結果は恐るべきものともなりそうだったのである。ユーモアにの面白さは相変わらず抜群だと一応つけ加えておく。
私的相対評価=☆☆☆

見えざる敵

予想に違わぬちょっとした謎に過ぎないが、読んでみると小説として結構面白い。見えざる敵は主人公の周辺に出現し、家宅捜索をする。見えざる家宅捜索、しかも金などは無事なのという気味の悪さ。そこには原因があるはずで、それは予想に違わぬ万年筆だったのだが、その万年筆の複雑動きが謎の主人公となったのであった。
私的相対評価=☆☆