第一話・東方社収録の書籍の謎第二話 甲賀小説あれこれ第三話 怪弁護士・手塚龍太に迫る/続・第三話 手塚龍太氏へ特別インタビュー(予定)/第四話 名探偵・木村清の横顔!? /第五話 怪盗・葛城春雄の謎(予定)/第六話 第一号・橋本敏とは!?/第七話 気早の惣太とは!? /第八話 探偵小説講話を見よ! /第九話 「劉夫人の腕環」(長隆舎書房刊行)の不思議/第十話 獅子内俊次の研究/第十一話 暗黒紳士武井勇夫の紹介番外一話 次女の処女作「愛国者」・・・・・・・予定ばかりです。


私の甲賀三郎・雑記録6

第六話 第一号・橋本敏とは!?

  橋本敏と言えば、愛すべきシリーズキャラクターの幾人も作り出した甲賀三郎にして、第一号となった典型的名探偵である。その活躍は処女作「真珠塔の秘密」と第二作「カナリヤの秘密」の二つだけに留まったのが、些か残念ではあるが、その後身として、時に名探偵ぶりを発揮する怪盗・葛城春雄や、書生から成り上がった私立探偵・木村清らがいると考えれば、甲賀三郎が創作に於いて、独創力を発揮する上では、その退場は仕方がないものだったのかも知れない。  

 と言うのも、橋本敏は、そのイニシャルもS・Hであり、シャーロック・ホームズをそのままモデルにした探偵役であるからである。その主人公探偵役としてはプロトタイプでそのもので、そのままのキャラに探偵役自身に真の独創性を付加するのは難しい物があった。またワトスン役としても、イニシャルこそは違えど、岡田がおり、執筆者の私となっている。ちなみにこの岡田、民間企業の倒産で、職に失い、官庁方面に職を探すなど、微妙に甲賀三郎の春田能為に似ているのかも知れない。もっとも春田能為の場合は自主退社ではあるが。

 このワトスン岡田の存在はともかくとして、この形式では本物の海外物に対して独自色を出すのは困難であると考えたのだろう。更には元々同人誌的に考えたホームズもどきの設定を続ける気力が出なかったのかも知れない。また出世作ともなった第三作・「琥珀のパイプ」で見せた軽妙なやり口と複雑に絡むプロットによって、新境地を切り開いた事で、橋本敏への主役性が完全に失われたのかも知れないし、単純に「カナリヤの秘密」後の欧州視察の長きに渡る時間とその間に発表された「琥珀のパイプ」による創作陣トップクラスとして認められた事で、投稿時代のホームズ模倣者・橋本敏はあっさり忘れたのかも知れない。

 まぁ、それはともかく、いくらか探偵について間単に説明を加えてみよう。この橋本敏ホームグランドであるが、探偵事務所兼私宅は上野櫻木町にあり、書生も持ち合わせていることからそれなりの地位ある紳士と見受けられる。そこでホームズ同様に依頼者から持ち込まれた事件を待ちかまえ、その後、探偵活動をして事件を美事解決するのである。探偵能力として、ホームズほどの派手さや超人的能力を発揮するわけではないが、論理的に解決を導く手腕はまさにホームズの血を引いていると言えるだろう。腕を組み、瞑想にふけった時こそ、橋本の頭脳は活発かし、脳内で数学式が働いているに違いない。

 とにかく橋本敏シリーズ(前述通り二作しかないが)で、最も注目する点としては、この橋本、岡田のホームズ、ワトスンの関係の構成は、本邦探偵小説史上として、後に著名作家になったケースでは、嚆矢になったと言える点であり、ドイルを宗とするという甲賀三郎にとって、それを明確に証明する作品であるという点に尽きるであろう。

(初稿:2002/11/18)


(2018/10/07追記) 近頃読了した「天才提琴家の死」(「雄弁」昭和2年3月号)において、橋本敏が「真珠塔の秘密」「カナリヤの秘密」同様の私立探偵として冒頭から最後まで登場することが判明した。 この作品での役回りを考えると橋本敏の再登場の必然性は感じられない。シリーズキャラクターを使いたければ木村清も使えたはずだ。よって、眠らせていたストックを出しただけなのかもしれないが、それでも実はまだ見ぬ登場作品がまだある可能性を感じさせるのは間違いないだろう。

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