第一話・東方社収録の書籍の謎第二話 甲賀小説あれこれ第三話 怪弁護士・手塚龍太に迫る/続・第三話 手塚龍太氏へ特別インタビュー(予定)/第四話 名探偵・木村清の横顔!? /第五話 怪盗・葛城春雄の謎(予定)/第六話 第一号・橋本敏とは!?/第七話 気早の惣太とは!? /第八話 探偵小説講話を見よ! /第九話 「劉夫人の腕環」(長隆舎書房刊行)の不思議/第十話 獅子内俊次の研究/第十一話 暗黒紳士武井勇夫の紹介番外一話 次女の処女作「愛国者」・・・・・・・予定ばかりです。


私の甲賀三郎・雑記録9

第九話 「劉夫人の腕環」(長隆舎書房刊行)の不思議

黒崎氏より頂戴したコピー資料群の中にそれはあった。今回の主役である、短篇集、長隆舎書房刊行「劉夫人の腕輪」だ。この本には不思議としか言いようのない作品が二作も収録されている。しかも他の作品についても、私がオリジナル作品を知らないだけで、もしかしたら同様の種のものもあるかもしれない。それはとにかくとしても、今回は判明している二作品の例にして、不思議に迫るわけだ。

この本の発行日は奥付を見てみると、昭和17(1942)年1月25日となっている。時は既に真珠湾攻撃後の事。この点出版は、特に別に珍しい話ではない。しかし問題は収録作品の内容だ。それがこの時にしては、平時の作品が多いのである。探偵小説は一部海軍などでは持て囃されたと聞くが、そうはいっても、「新青年」はもちろん、大衆雑誌を含む一般出版界においては、その名を聞く事はいよいよ少なくなっていた。むしろ平時の時に比べ、ジャンルとしての探偵小説は分類化され、探偵小説の名は嫌われるかのごとく、亜探偵小説のごときは探偵小説の名を外しはじめていたとも言える。甲賀の探偵小説論争は、皮肉にも、探偵小説を書きにくくした戦争と言う時代の波と共に、ようやく進んでしまったとも言えるのだ。

その時代においてをだ。甲賀のこの短篇集は、多くの探偵小説を収録している。あまつさえ懐かしき怪盗までも登場する作品が複数あるのである。これはどういうことだろうか? この辺りは本テーマにとっては重要だ。

と謎々な話を先に飛ばしすぎている。まずはだ。以下に全収録作品を挙げてみよう。括弧内は判明済の初出年代と初出誌だ。
「劉夫人の腕環」(【新青年】1940年1月号)
「越境の密使」(初出不明)
「燃ゆる髑髏」(初出不明)
「白紙の命令書」(【講談倶楽部】1929年1月号)
「風のような怪盗」(【キング】1929年6月号)
「畳を盗む男」(【キング】1928年1月号)
「不開の金庫」(初出不明)
「歩く砲弾」(初出不明)

この中で、私が発見した不思議な二作というのが、「燃ゆる髑髏」と「不開の金庫」の二点だ。
どこが不思議かというと、これら二作は既視感どころの代物ではなかったのである。同じなのだ。以前読んだ別のタイトルの付いた作品と。と言っても、全く同じなのはプロットやトリックに限り、そこに出て来る人物や地名だけは別物になっている。

近ごろ、論叢社というところから「甲賀三郎探偵小説選」という単行本が出たが、その中に折良く今回話題になる「囁く壁」という作品が入っていた。これこそ、今回話題の「燃ゆる髑髏」と同等品なのだ。
ちなみに「囁く壁」は 「オール読物」昭和6年5月号が初出。

(初稿:2003/7/7 但し未アップロードは2004/1/26 そして正式公開(デッドリンクでした…)は2008/07/09)


甲賀三郎の世界に戻る